『雰囲気としての心理面接 そこにある10の雰囲気』
高良聖著(日本評論社)を今号からご紹介します。
心理面接の場面にとどまらず、雰囲気が伝えるものは案外、とても大きいように思います。
私たちは、雰囲気に癒され、時には傷つけられます。
今回は、面接場面、セラピスト、クライエントなどという言葉が多く用いられるかと思いますが、そのような特殊な場や関係だけに限定せずに、身近な日常場面を思い浮かべながら、読んでいただければとお役に立つことが見つけられるのではないかと思います。
では、面接の雰囲気とはいったいどのような構成要素から成り立っているのでしょうか。
臨床心理学の視点から雰囲気を支えている要素について、特に言葉と声、表情と視線、しぐさ、服装、環境と空間について考えてみましょう。
■ 言葉と声
言葉の内容ではなく、言葉の出し方、言い方、リズムそして声について考えていきます。
雰囲気を考えたとき、言葉の内容以上に大きな影響を与えている場合も少なくありません。 実際に、ことばの様態に応じてその伝達の意味が変化することは経験上知られていることでしょう。
例えば、同じ言葉でも、高音か低音か、早口かゆっくりか、あるいはやさしく語るかドスを利かせて語るかによって、その伝達の意味が異なるということです。
例えば、過去に遡っての原因探しの場面では声のトーンは低めにします。 一方で未来に向けた 対処行動をめぐる場面では、声のトーンは高めです。
必ずしも「高音早口」がいけないというわけではありませんが、個人の過去が語られたり、プライバシーを扱う場面では、「低音ゆっくり」 が望ましいのではないでしょうか。
■ 語尾
雰囲気を考えたとき、わが国においては、言葉の出し方における語尾の使用への配慮を忘れてはなりません。 例えば
1・・・今日はなんか元気ないみたいですね。
2・・・今日はなんか元気ないみたいだね。
これらの語尾には、両者の関係性が関与しており、不慣れな関係から慣れた関係に移るに連れて、1から2にシフトしていきます。
このように、内容だけではなくいやむしろ内容以上に、「言い回し」 が雰囲気に大きな影響を与えており、たとえば、あえて慣れた雰囲気を醸し出すために2のように使ってみることができます。 すなわち、戦略的に幾つかの言い回しを利用するわけです。
■ うなずき言語
一口に「うなずき」といっても、声の大きさ、リズム、口の開け方、息の抜き方、上げ調子、下げ調子等によって実に様々な表現形態を取ります。
具体的には、「うん」「はい」「なるほど」という言葉が、いわゆる「うなずき言語」に相当しており、うなずき言語には三つの機能があると考えています。 すなわち、促進機能、支持機能、そして疑問機能です。
促進機能とは、クライエントの次の言葉を生ませるように促進させるという働きです。
これは、心理面接における傾聴の基本ですが、「うん」という言葉が、クライエントに次の連想を引き起こしやすくさせる雰囲気を醸成します。
この場面では、「うん」は、低い調子で合いの手を入れる感じで関わります。「うん、それからそれから」とん、「うん、それでそれで」という調子です。 このうなずきによって、クライエントの連想、イメージ、内面の物語が広がり、面接での言葉が豊富になることが期待されます。
支持機能とは、クライエントに共感して、セラピストがその感じを分かっているということを伝える働きをします。クライエントにとって関心を持って聴いてくれるセラピストの存在はそれ自体治療的であるという理由で、うなずきそのものが積極的にセラピーとしての役割を果たしています。
この場面では「うん」は相手の気持ちと重ねるような調子で語ります。 共感とは、相互作用を通して場に相互作用の雰囲気が生まれること自体を意味しているのであって、単に相手の気持ちを察するとか理解するとかのレベルにはとどまらないのです。
疑問機能とは、反論、反駁のうなずきです。 ここでの「うん」は、何か変だぞ、おかしいぞという感じを込めた語尾のイントネーションにおける上げ調子がきわめて重要です。
以上、うなずき言語における三つの機能に関しては、いずれも具体的には声の出し方にポイントがあるということです。
なお、声の大きさですが、心理面接で大声になることは稀です。 それは、心理面接が「聴くこと」を主体にしているからです。 少なくとも、クライエントより小さい声の方が「聴く」 態度としては好ましいと考えます。
ただし、いわゆるアドバイスモードで相手に接するときはしばしば声が大きくなります。 叱咤激励の類では多少大きめの声の方が相手に伝わる効果も高くなります。
次回では、続いて、雰囲気を創る、表情と視線、しぐさ、服装、環境と空間を考えてみたいと思います。