学園日誌

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10代のメンタルヘルス【10】

今号から、本シリーズの最後の巻となります10代のメンタルヘルス10 ADDとADHD(大月書店)について紹介をしていきます。

西濃学園でも、今年度より、ADHDをはじめ、LD、高機能自閉症といった発達障害について系統的な講習に学び、また事例検討を通して個々の理解を深め、教育や日々のかかわりの中に活かしていこうと、積極的に支援する方針を立てています。

本書は、ADHDについてのバランスのよい解説書であり、実践指南書です。バランスのよい、というのは、ADHDについては原因などをめぐって諸説があるのですが、そのどれかに加担するというのではなく、バランスよくそれぞれを解説して、その上で、これは確実という考え方や処方や提案をしているということです。

本書の後半では、アメリカでADHDと判断された子どもへの教育が紹介されていますが、アメリカには、IDEAと略されている個別障害者教育法という法律と、RAといわれているリハビリテーション法という法律があり、このおかげで障害を持った子どもの教育システムの改善がかなりすすみました。

もう1つ、IEPと略されている個別教育計画書の作成も特徴的です。本人、保護者、教師、学校の担当者などがチームを組み、その子のための個別教育計画を立てるのです。このために学校によってはずいぶんと時間をかけるようです。

例えば音楽が好きであれば、他の教科でもできるだけそれを活かした学習プログラムを考案して子どもと保護者に提案することなど、決め細やかなメニューが準備されます。このIEPは学校が変わっても同じメンバーで構成されるので、転校しても、進学しても、一貫性が保たれるといいます。


では、わが国ではどうでしょうか。わが国でも、2000年を前後する時期から、ADHDやアスペルガーあるいは高機能自閉症といわれている子どもたちが目立ってきて学校が困難を抱えている、とあちこちでいわれるようになりました。

学級崩壊問題が議論される中で、ADHDという言葉が注目されるようになったのは記憶に新しいところです。政府と文科省は、この事態に対し、世界の国々での軽度発達障害といえる子どもたちへの教育の取り組みを参考にして、新たな教育システムを模索し始めました。

その中で特に大事なのは、2003年3月に文科省の「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」が出した報告書でしょう。報告は「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」というもので、その中に「小・中学校においてLD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒への教育支援を行うための総合的な体制を早急に確立することが必要」であるという文言がもりこまれました。

この報告で、これまでの「特殊教育」という言い方をやめて、「特別支援教育」という言い方を採用することが提案され、その「重点施策実施5か年計画」には、こうした教育を行うためのガイドラインを策定することも提案されています。実際にガイドラインは策定され、すでに配布されています。

ガイドラインの中では、全国調査の結果も書かれていて、こうした障害で学習に困難を抱えている児童生徒は全体の6.3%程度であることが示されています。仮に義務教育人口を1200万人とすると、70万人以上いることになりますから、相当な数字でしょう。


ガイドラインでは、特別支援教育は「これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、その対象でなかったLD、ADHD、高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握し、当該児童生徒の持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善または克服のために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである」と定義され、個別のニーズに応じることが強調されています。そして、



?@個別の教育支援計画の策定、


?A特別支援教育コーディネーターの指名、


?B広域特別支援連携協会等の設置、



を3つの重点にしています。各学校に、これらの子どもたちのためにコーディネーターを配置することが提案されたのです。

2004年12月に成立した発達障害者支援法は、わが国で初めてADHDなどの発達障害をもった人たちを支援することを認めたもので、家族支援の重要性もうたわれています。理念の点では、ともかく欧米の水準に追いつくことの大事さが自覚されたのです。こうした理念が実際にどれだけ具体化されるかは、今後の国の姿勢、そして学校と自治体の努力にかかっているといえるでしょう。その意味でも、本書は、ADHDで悩んでいる若者やその保護者だけではなく、これからの学校や支援施設の役割を考えたいと思っている教員や関係者にも大変役に立つものと考えています。


では、まず、ADDとは、ADHDとはなんでしょう。

あなたの友達で、いつもひっきりなしに動き回っている人はいませんか?また、周囲に全く注意を払わない人はいませんか?

周りの人たちはイライラするでしょう。でもこんな友達の行動には原因があるかもしれません。このような行動は、医学的にはADHD(注意欠陥/多動障害)と呼ばれることがよくあります。ADD(注意欠陥障害)と呼ばれることもありますが、本書ではADHDという呼び方を使います。アメリカとカナダの学齢期の子どもの3?7%がADHDだといわれています。男女の比率は同じですが、男子のほうが診断されることが多いようです。ADHDは知能や能力と関係なく広く見られ、多くの子は平均的、あるいはそれ以上の知能を持っています。


ADHDの主な症状には、多動性、衝動性、不注意の3つがあげられます。

3つの症状のうち1つか2つ、あるいは全部の症状が出ることがあります。

多動性とは多くの行動をするという意味です。多動な子どもは1つの場所に1分たりともじっとしていられずに、動き回ります。衝動性は考えずに行動を起こすことです。衝動性のある10代は、どんな状況か考えないで飛び込んでいきます。 人の邪魔をしたり、話を聞かなかったり、突然相手のものを奪ったりすることがあります。 不注意というのは、集中したり注意を払うことができないという意味です。 不注意である10代は、1つの作業や事柄に集中することができません。 それが興味をそそらないものであれば、なおさらです。 そして、小さな音や物事ですぐに気が散ってしまいます。


***次号では、どのような原因論があるのか、どのようにして診断をするのかと、より詳しくADHDについて見ていきたいと思います。



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