学園日誌

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学園日誌

不登校の解放 家族のシステムとは何か

 西濃学園では、201027()に、江口昇勇先生(愛知学院大学心身科学部)に「思春期の危機と再生?子どもの声を聴いていますか?」というテーマで講演をしていただくことになりました。江口先生には、今年の6月にも「家族」を切り口としたお話をいただき、非常に好評をいただきました。最近は、子どもに問題が生じたとき、援助者が子ども自身に向かい合うかかわり以上に、家族に焦点を当てた関わり方が効果的だと言われるようになりました。今号で紹介する『不登校の解法 家族システムとは何か』(文春新書 団士郎著)も、家族療法の考え方に依って相談に関わる体験がたくさん紹介されています。


 


…子どもの問題解決に、両親や祖父母、兄弟などの協力を求めるのは、特に新しいわけではありません。家族へのアドヴァイスは従来から行ってきたことでした。では何が新鮮だったかというと、家族をどのようなものだと理解し、それに対してどう取り組むかという点でした。中でも問題解決のために原因を探ることをしない視点は画期的でした。これは家族の中に問題の原因を作った犯人を探すのを止めることでした…原因と結果では結びきれない現象が、子育てや家族の問題に数多くあるとしたら、その解決にも、因果論とは異なる新しい考え方が必要だったということになります。さらに新鮮な驚きをもたらしてくれたもう一つの言葉が「問題が問題なのではない。問題解決が問題なのだ」、これです。問題や悩みの起きない子育てはありません。だから問題が起こるのは普通です。そうすると親は大抵、なんとか解決しようと自分たちなりの努力をします。それにもかかわらず繰り返されてしまうのは、問題が難しいのではなく、解決努力に効果がないのです。その結果、問題は固定化し、いつまでも残ってしまいます。問題と無効な解決努力の堂々巡りです。この状態をひとつのシステムだと考えるのが家族システム論です。誰が悪いとか、なぜこうなるのかを追求する代わりに、このようなことが繰り返されている、と見立てます。システムと呼んでいるものは、ことの良し悪しではなく、そのように存在するものです。そしてそれがたくさんの他の要素と絡まって現状を作っているのです…一番大切なのは、因果論以外のこういうとらえ方があることを知ることです。これから述べようとするのは、家族の行動の中に見られるシステムの話です。個々の家族の作りだすシステムは、いろいろなアングルから見つけることができます…家族を一つのシステムとして見るということが、なんとなく分かっていただけると問題が起きた時、何をすればよいかが比較的分かりやすくなります…登場する家族の抱える問題は、不登校が一番多いのですが、子どもの起こす問題はそれだけではありません。家族のシステムを考えてみることは、不登校問題の解決にだけではなく、自分たちの子育て全般の見つめ直しにも役立つのではないかと思います…


 


第一章では、両親になった夫婦が速やかに行わなければならない仕事として「名づけ」を例に上げながら、「決断」「決め方」について考えます。ふつう物事を決定するとは、何を決定するかという内容のことを指しています。しかしここでは決定といっているのは、誰が決定して、どのように実行するのかということです。…このパターンに注目すると、面白いことが明らかになります。ご自分のパターンを考えてみられても分かるのではないかと思いますが、人は物事の決め方を、そう何通りも持っていません。むしろワンパターンだと言ってもいいかもしれません。子どもの名前を自分たちで決めた人は何かにつけてそうだったのだと思います。識者に依頼するタイプの人は、何かにつけてそうだったのではないでしょうか。これは、どの決め方が良いとかという話ではありません。うまくいっているならば、どれであろうと構わないのです。ここでは、「決め方」には家族それぞれにパターンがあることを知ってもらいたいと思います。家族はいろいろなことを決めなければならない小集団なのです…


…生活に関するあらゆる判断と決定を、いつも特定の人が行う家族があります。そこでは常に二つのことが同時に進んでいます。一つは決定権の独占です。その結果に家族が不満のない場合は、ますますこれが強化されていきます。一方、他の人たちは、決断を自分の責任で行わなくてもよくなっています。その結果、決定する人はますますその機会と責任が増え、しない人はますますそんな責任から逃げるようになります…「決定」がいつも私の役割になってしまっているかもしれない、あるいは、いつも任せてしまっているなぁと思い当たる方もいることと思います。この「いつも」を変化させる試みから始めてみるのはいかがでしょうか。


 


 そして、権威の不在、つまり「決断」をする人の不在の問題についても触れています。…父親もしくは家族の中心的な人に、子どもを社会の一般的なルールにしたがって行動させる力が弱いと、問題行動は黙認されてしまいます。起きてしまった問題に対しては、家族の誰かが多少のストレスを引き受けてでも、改善しようと試みることが大切です。困った状態への対応力が弱く、改善努力の見られない場では、いとも簡単に問題が日常化してしまいます…と。


 次号より、関係を作る特徴的な「反応」について、家族の「境界」について、またさまざまな父親・母親について、家族を一つのシステムとして見るとどのように見えてくるか、を紹介していきます。


 


 


 


何を手に入れ、何を手放すか、離婚・再婚においてはその決定に子どもが巻き込まれます…



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