学園日誌

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思春期を生きる発達障害 こころを受けとめるための技法

 今号は、『思春期を生きる発達障害 こころを受けとめるための技法』を紹介します。現代を生きる子どもたちにとっても、最も大きな将来の不安のひとつが就労の問題となっていますが、その適応に向けた教育と実践に焦点を当てて、お伝えをしたいと思います。


 


 著者のおひとりは、内閣に設置された教育再生会議の委員をされており、そこで、「就労不安定者」の問題を提起しています。ここでいう就労不安定者とは、アルバイト、パート社員、派遣社員、契約社員といった働き方をする人たちを指し、ニートの人たちもここに含まれてきます。「就労不安定者の苦手意識」調査によると、「字を書くのが苦手」「計算が苦手」「手先が不器用」「人の話を聞くのが苦手」「人に話すのが苦手」「面接で質問に答えるのが苦手」が挙がっており、それ以外に「面接の電話をするのが苦手」「周囲のやり方を見て覚えるのが苦手」「知らない人に話しかけるのが苦手」「人から好感をもってもらうのが苦手」というような傾向が強くあるといいます。裏を返せば、就労不安定になる人が抱えやすい「苦手意識」がある程度わかっているのだから、そこを社会に出る前に少しでも徹底して訓練しておく必要がある、ということです。この調査は、就労に安定して就けない人たち全般が抱える苦手意識ですが、発達障害を抱えていたらなおさらであろう思われます。ここで言えることは「字が書けなかったら無理に書かなくていいよ」とか「計算ができなかったら電卓を使えばいいよ」とか、「不器用だったりコミュニケーションが苦手なのは仕方がないわ。それはあなたの個性よ」と言うのは簡単ですが、そういった苦手意識が将来就労不安定になるリスクの一つになり得るということです。


 


また、こんな調査もあります。日本青少年研究所の中高生意識調査ですが、「あなたは自分がダメな人間だと思いますか?」という質問に対して、「とてもそう思う」「そう思う」と答えた日本の中学生は56%、高校生に至っては65.8%もいるのです。中学生では二人に一人以上、高校生に至っては三人に二人くらいが自分には人並みの能力がないと感じているということになります。これは、発達障害をもつ子どもたちに聞いた筋ではなく、わが国の子どもたちが置かれている現実なのです。特別支援教育、キャリア教育、今後本格的に始まる英語教育、多様な教育の必要性が叫ばれていますが、この現実からスタートしない限り、何の効果も生まないのではないでしょうか。「自分なんかダメ人間」と思っている子どもたちに「将来何になりたいの?」と聞いても本気の答えなど返ってきません。「自分には人並みの能力などない」と思っている人間に、どんな将来が描けるかということです。だからといって、なんでもかんでも自尊感情さえ上げれば解決するわけでもない、そこが難しいところです。


 


 では、どのような教育が求められるのでしょうか。日本ではよく「褒めて育てよ」と言われ、「あなたは素晴らしい、あなたはそのままでいいのよ。それがあなたの個性なのよ」ということを多くの親が子どもに言っています。しかし褒めて育てるだけでは子どもはよくならないことが強調されています。ターゲットを「自己充足完」「達成感」に置き、まず「安心安全な感覚」を養い、次に「アイデンティティの感覚」それから「所属する感覚」を養うようにしていきます。また、奉仕活動や地域社会に参加する経験によって「自分には十分な能力がある」という感覚を育てることができるといいます。そのうえで、何が得意なのを踏まえ、どのような仕事に就きたいのかを検討し、少しずつ社会経験の経験を積ませ、最終的に自立を達成させる、という道筋が紹介されていました。このように、教育の課題を具体的に考えたときに、「将来の可能性を見据えているかどうか」ということが重要だとわかります。いま、居心地のよい環境を提供するだけでなく、本当に将来の可能性を見据えているかどうかが問題なのです。つまり、「自分のことを分かってくれない人たちの中でもやっていけるよう、生きる力をつけることができているかどうか」ということから目を逸らしてはいけません。よって、社会に出るまでは、とにかく少しでも子どものニーズに応じた指導をして、メタ認知を強化して脳の中に新しい回路をつくっていくこと(たとえば、「自分は衝動性が強いのかどうか」「自分はどういうときにパニックになりやすいのか」などというようなことを知っておく。知っていれば、そうならないように、あるいはそうなったらどうすればよいかを訓練し、自分自身を律することを学ぶ、など)、語彙などをためさせて、自己コントロール力などを上げ、社会を生き抜くスキルを身につけさせることこそが、真の支援となるのではないでしょうか。



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