学園日誌

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学園日誌

引きこもり外来1


 今年より、中垣内正和著『はじめてのひきこもり外来』(ハート出版)をご紹介します。


今後、不登校・ひきこもりが減少する可能性は少ない、ひきこもりの平均年齢は一段と高くなる、と言われています。しかし、その治療、対策は今もってはなはだ不十分な現状があります。ひきこもり問題の困難さは、引き森から脱する方法と方向があまりに漠然として見えてこない点にあります。本著は、ひきこもりを依存症の概念から理解、そして治療を進め、その有効性を確認し、「ひきこもりからの回復―若者の10ステップ」として目に見える形で示してくれます。ひきこもりからの回復を進めるためには、親や社会の側にも「自らが回復・成長・成熟する」姿勢は欠かせません。たとえ今は「ひきこもり」という問題を呈していなくても、親子や夫婦や家族の関係を見直す視点と、やり直す方法について教えてくれると思います。


 


 まず、おやの10ステップを紹介します。統合失調症などの精神病ではない、神経症レベル、パーソナリティ生涯などによる「ひきこもり」には、家族関係の問題が関わっており、当事者から動き出すことが極めて少ないという特徴から、「ひきこもり」と呼ばれるのです。したがって、何はなくともあれ、親のほうが動いてみる必要があるのです。


 


【親のステップ1】今までのやり方は無力だった


このステップでの主な気づき


1.良い結果につながらなかった


すべてのステップは、「無力さの自覚」から始まります。それは、自分の生きの力やパワーを「なせばなる」と信じて取り組んだ結果が、良い結果につながらなかったこと、逆効果となったことを自覚することです。


 


2.親子の価値観がいっしょだった


「自分たちの社会常識は正当である」という意識が親たちにはあります。


ひきこもり問題を抱えるオアたちの7割が会社員や公務員などの俸給生活者であり、中産階級に属しています。親たちが社会的に受け入れられた生き方をしてきたことは、ひきこもり問題の特徴の一つと言えます。親の世代は戦後経済成長を支えた価値観の担い手です。


しかし、中産階級の弱点は、世襲的ではないために、子女が学歴や会社就職を得ないと同じ生活レベルを維持できないという点に在ります。このために、親には学校・学歴や会社に対する強い思い入れがあり、上昇のための勉学や努力を惜しまないことや、人波から外れないことを子供たちに求めてきました。ひきこもりの当事者たちは親の考えや期待を熟知しており、ほとんど親の価値基準と同じ考え方をしています。当事者には、中学高校の不登校、高卒無業、会社退職後など、どの段階からひきこもり出したにせよ、親の願う生き方を実現できなかったという挫折感や後ろめたさがあります。


 


3.親も子も「自分が被害者」だと思っていた


親たちには「問題があるのは本人であって、親は困っている」「世間に恥ずかしい」と被害者意識があります。子供が親の期待に応えられない場合には「せめての自立」を望みますが、ひきこもりは会話すら拒絶したような極端な「依存」状況を継続させるので、親には「なぜうちの子だけが」という犠牲者意識、被害者意識が生じるのです。そして、家族は心的共同体を形成していますので、親の考えることや感じることは、当事者に即座に伝わります。当事者にしてみれば、罪悪感とともに「親の言うことを聞いていたらこうなってしまった」という被害者意識があります。「親の期待に縛られて身動きできない」という犠牲者意識も出てきます。学歴や出世と言った状況判断を誤って期待を向ける親と、対人関係であれいじめであれ挫折を経てトラウマをもった当事者の間には、ドア一枚をはさんで、ともに被害者意識にさいなまれた、かみ合わない「すれちがい」が続くことになります。


 


4.親の「ガンバリズム」がプレッシャーになっていた


親たちにはがんばり屋の傾向が認められます。「がんばる」「一生懸命」「必死に」「死んだ気になって」「ベストを尽くす」など、いわゆるがんばり言葉があふれています。がんばる能力自体は必要ですが、柔軟に機能するためには同時にがんばりすぎない能力も必要となります。「無力さの自覚」は、がんばりパワーがひきこもりに対して無効であることを認め、一方的な頑張りを修正していくことでもあるのです。


 


 今回は最初の第一歩であるステップ1を詳しくご紹介しました。気づくことは痛みをともないますが、共存的な関係から生じるさまざまな問題が解決可能であるという、現実的な「希望」がここにはあります。



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