学園日誌

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ひきこもり外来2


 今号も引き続き、中垣内正和著『はじめてのひきこもり外来』(ハート出版)をご紹介します。前号では、「ひきこもりからの回復―親の10ステップ」の【親のステップ1】今までのやり方が無力だったことに気づくことについて、学びました。


【親のステップ2】深刻化した要因に気づく


1.事態が深刻化するもうひとつの要因に気づいた


ひきこもりの問題の原因と責任を、親子関係だけに帰することは誤りといえます。ひきこもりには、日本社会特有の原因が存在することがうかがえます。


2.子ども第一主義、「民主」の過剰、成人後の同居主義


ひきこもりの問題が生じる原因のひとつに、親世代の背負った社会的・文化的な背景があるといえます。子ども第一主義とは、家庭生活において、夫婦関係より子どもへの配慮が優先し、家庭生活の中心に置くことです。子ども第一主義は、夫婦関係を疎遠にして、父親の会社人間化、仕事人間化を強めることになります。父親は「稼いで家族を養っている」ことを強調して、家庭での不在を正当化するようになります。家庭での父親不在は母子の密着を強めて、母子の共依存が成立するのです。いったん成立した共依存は、意図的に取り組む以外は、極めて解消しにくい状態となります。母娘の共依存を基にして生じるのが摂食障害であり、母子間とくに母息子の共依存を基にして、ひきこもりが生じるのです。共依存は、ひきこもりを長引かせる要因としても作用します。50歳の息子に添い寝して宥める80歳の母親など、いつまでも幼いころの母子関係のままになってしまうのです。また、父性中心主義が否定され、戦後の民主教育を受けた世代が親となりました。この世代の父親たちは、「一家の長」という考え方を排除して、子どもの世代に「民主的」な「友だち家族」的な対応を心がけてきたといえます。「友だち」であるかぎり、「決定は本人任せ」になるしかなく、そして、「本人任せ」が「民主的」対応と誤解されてきたのです。「出るまで待つ」「自己責任」の原則は不登校にまで拡大されましたが、現実には、不登校の20%は、自力で外に出ることはできなかったという結果になり、ひきこもりとなりました。「不登校・ひきこもり」も当事者の自由意志によるものとみなした時点で、親は手も足も出せなくなったのです。


3.神経症が進むことに気づいた


親たちは、不登校・ひきこもりの原因を、いじめや教師との軋轢などに求める傾向があります。しかし、対人関係や対人関係の問題が、いじめより多く、また思春期の社会不安障害やうつ状態の問題も、不登校の発生に大きく関わっていると思われます。


【親のステップ3】母性の過剰と父性の不在


1.父性の不在と母性の過剰に気づいた


2.母子密着に気づいた


ひきこもりのケースでは、母性の過剰による過保護・過干渉が多く見受けられます。母親による長年の世話焼き行為はひきこもり生活を支え続けます。社会性の発達が止まるどころか、幼児返りをしてしまう当事者までいるのです。「息子・娘が大人にならない」ことを嘆きながら、片方で「息子・娘を子ども扱いし続ける」矛盾したやり方、これを母子間の「共依存」ということができます。


3.父性の敗北を認めた


父性の不在は、母子密着をさらに増大させます。子どもの「反抗期」や思春期への対応ができないままに、家から足が遠のく父親も多いといえます。三世代家族の祖父母が実権を握って父親を「子ども扱い」した結果に、父親の役割を発揮できない状況となって、子どもの不登校につながるケースもあります。逆に、父親の過剰な圧力によって、言うことを聞かせようとすることはどうでしょうか。父親による圧力は、父性の復活のように見えます。しかし、息子・娘との向き合い方を知らないといえます。


4.共依存の問題性に気づいた


「共依存」という言葉がしばしば登場していますが、こじれながらしがみつく人間関係の在り方を「共依存」といいます。世話焼き行動が、本人の自立を促すどころか、生活の自立を損なうことに気づかない母親が多いのです。自立を支える方法がわからないので、すぐに「突き放した方がいいのですか」という質問になります。父親は全てを妻任せにすることによって、共依存に与することになります。共依存による混乱から、親子ともども回復するポイントは、「当事者との距離の取り方を変える」ことです。


【親のステップ4】第三者の存在を活用


第三者とは、医療機関、NPO、親の会、保健所、居場所、フリースペース、自助グループ、訪問支援員、訪問サポート士があります。これらは、孤から悲劇へと進行することを防ぐ最大の防波堤となり得ます。


 次号では、【親のステップ5】夫婦そろっての参加に意義を見つける、を詳しく学びたいと思います。



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