学園日誌

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みんなのなやみ4


今号も、引き続き、重松清著『みんなのなやみ2』(理論社)をご紹介します。「五章 親だってなやんでいる」に寄せられた、「自分の子どもを守りたい」という相談の続きをみていきましょう。もう一度、相談内容を記します。














相談:中1の娘がいます。最近、学校でいじめられているようなのです。娘のジャージに靴の跡がついていたり、一度、プリントにひどい言葉を書かれているのも、偶然なのですが娘の部屋で見ました。娘は「なんでもないから」と言って、がんとして学校でのことを話してはくれないのですが、娘を守ってやりたく、しかし、夫も単身赴任中で、私自身、身近に相談できる人もおらず、どうしていいのかわかりません。親としてどのようなことをすべきなのでしょうか。ご相談させてください。         (Yさん 39歳 主婦)




 

 

 


 


 


 


 


 


 


 


 




前号では、子育てにとって大事なことのひとつとして、お父さんとお母さんの親としてのスタンスを協同してしっかりともつということ、を紹介しました。


 それでは、ふたつめです。重松さんは、子どもを守るとき、子ども自身のプライドも守ってあげたい、ということも強調されます。


 


・・・Yさん(相談者であるお母さん)が子どもを守ってやりたいと願う、それが心の底からの気持ちであることは、ぼくにも痛いほどわかります。ただ、具体的に「守る」といった場合、一つは、現実的に子どもが受けているかもしれないいじめから守る、被害者である立場から救い出すということがありますが、必ず忘れてはならないことがもう一つある。子ども自身の「プライド」を守る、ということです。これは、どうか心にとめておいてください。


 いじめとは、それを受ける子どもの自尊心や誇りを奪い、存在意義を決定的に踏みにじるものです。Yさんの娘さんが、学校でほんとうにいじめにあっているとしたら、教室でのプライド、友だちの中での彼女のプライドは、大きく傷ついているということは想像に難くない。娘さんにとっては、じつは我が家が唯一、残されたプライドを保てる場所になっているかもしれないのです。


 おとなはよく、「どうしていじめられていることを親に言わないの?」と子どもを問いただすけど、学校という大きな社会でプライドを踏みにじられていることを打ち明けてしまったら、「親に対するプライド」という最後の砦を子どもは自分から捨てなくてはならなくなってしまいます。いつも元気で明るい我が子というという親の期待だけは、どうかして裏切りたくはない。せつないくらいにそう願っているのが、子どもという存在なんです。


いじめがエスカレートして、たとえ心身ともに取り返しのつかないダメージを受けたとしても、だからこそ唯一残された家庭でのプライドを守ろうとするあまり、自分が生きて我慢ができる限界まで、かたくなに沈黙を守ろうとする子どもだっている。親は、子どもの様子に感じるものがあれば、学校と連携して少しでも詳しい情報を得るようにしよう。そのうえで、子どもが必死で保っているプライドを崩さずにいられるよう、かわいそうだとか、ひどい目にあってつらいだろうとかいうことは、あまり言い過ぎないようにしてほしい。


 子どものプライドについてもう少し話を広げると、中学生というのは、親の目からすれば、まだまだ小学生の延長というふうに見えてしまうのかもしれない。でも、子どもは親が考えているよりも成長していて、自分自身の力でなんとかしなきゃいけない、親には自分の弱いところは知られたくないというプライドを、確実に育てているものなのです。そこは、うまくわかってあげたい。子どもを守ろうとするあまり、子どものいちばん根っこにあるプライドを親が理解できなかったら、外でのいじめとはまた違う、深い傷つき方をしてしまうと思うのです。


 成長した子どもにとっては、親から頭ごなしに何かを決めつけられるのが、一番いやなことなんだ。いつまでも子どもではない。でも、一人で解決できるほど大人でもない。その距離感をはかるのはほんとうに難しいことだけど、子どもを守る気持ち、でも子どものプライドに土足で踏み込まないでいようとする態度は、親の方も、うまくバランスを取っていきたい。


 今の話はすべて、親としてのぼく自身にも向けて語りました・・・


 


思春期の子どもに対するとき、大切なことの一つとして、心にとめておきたいことです。


本書は重松さん流の「なやみの背負い方」「なやみを背負うコツ」が愛情深い言葉で語られており、読まれましたら、きっと親子ともども、どこか楽になれるのではないでしょうか。重松さんの小説もおすすめです。 




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