学園日誌

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みんなのなやみ3

今号も、引き続き、重松清著『みんなのなやみ2』(理論社)をご紹介します。「五章 親だってなやんでいる」に寄せられた、「自分の子どもを守りたい」という相談です。




相談:中1の娘がいます。最近、学校でいじめられているようなのです。娘のジャージに靴の跡がついていたり、一度、プリントにひどい言葉を書かれているのも、偶然なのですが娘の部屋で見ました。娘は「なんでもないから」と言って、がんとして学校でのことを話してはくれないのですが、娘を守ってやりたく、しかし、夫も単身赴任中で、私自身、身近に相談できる人もおらず、どうしていいのかわかりません。親としてどのようなことをすべきなのでしょうか。ご相談させてください。         (Yさん 39歳 主婦)




重松さんは、お返事の中で、学校の担任の先生と丁寧に情報交換をするところから始められたら、と具体的かつ現実的なやり方を教えてくれますが、その他に子育てにとって大事なふたつのことを示してくれています。

ひとつ。
…ぼくが少し気になったのは、「夫も単身赴任中で…身近に相談できる人もおらず」という個所です。いじめは、子どもにとって人生最大のピンチです。自分の自尊心や、属する世界での存在意義というものを、理不尽に踏みにじられ、揺るがせられるのがいじめなんです。我が子がそんな危機に直面しているのに、母親が父親に何も言わないというのは、やっぱり、おかしいと思います。電話やメールもある。ファックスでもいい。直接会いに行くことだって可能でしょう。自分が家庭をまかされているのだから、単身赴任中の夫には心配をかけたくないというあなたの気持ちもわかりますが、その気遣いのために、もっと大きく取り返しのつかない状況になって初めて、「じつは娘が…」とあなたから打ち明けられたら、お父さんだってショックだと思います。
ぼくはかつて、全国の単身赴任のお父さんたちを訪ね歩いたルポタージュを書いたことがありますが、そのときに印象深かったのが、単身赴任によって、逆に自分の子どもとの心理的な距離が縮まったという人が多かったこと。一つ屋根の下ではなく、別々の街に暮らしていることで、かえってお互いを思いやっていろいろな手段でやり取りをし、関係を大切にするようになったというのです。Yさんの娘さんも、今は学校のことをかたくなに沈黙しているということですが、もしかしたら目の前にいないお父さんからの問いかけ、呼びかけに対しては、素直に打ち明ける可能性だってあるかもしれないんです。その可能性は、最初から摘んでしまわない方がいい。Yさんだって、誰にも相談できないでどんどん苦しんでいくことになるのは、絶対にいけない。
厳しいことを言いますが、Yさんのその姿勢は、子どもにとっていちばんのマイナスになってしまうと思うのです。いじめの可能性があるからこそ、夫婦でじっくりと話し合い、親としてのしっかりとしたスタンスを持つ必要が絶対にある。それこそ、万が一の場合は転校させることも辞さないという考え方であるとか、あるいは子どもから打ち明けてくるまでは注意深く様子を見守るとか、考え方はさまざまにあり得るとは思いますが、まずは夫婦で考えを一致させておく。同時に、学校の先生に対しては、家庭と学校とで情報を共有しておく必要をしっかりと訴えて、コンセンサスを得ておくのです。
ほんとうなら頼りにできるおとなたちのはずなのに、父親は何も知らず、母親は状況にどう立ち向かえばいいのか分からずにただ動揺しているだけなんて、子どもにとってはつらすぎます。どうしてお母さんに話してくれないのかと迫っても、確固たる姿勢が何も決まっていないところへ向けて何をどう打ち明ければいいのか、子どもだって混乱するだけだというのが、正直なところだと思うのです。

今号では、子育てのなやみにおいて大事にしたいことのひとつめを紹介しました。次号では、ふたつめ、子どもを守るとき、子ども自身のプライドも守ってあげたい、というお話を紹介したいと思います。


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