その当時、仮想敵国だった日本は天皇を現人神として崇め、アジアでその勢力を一方的に広げていた時代です。ニュースで見聞きするその天皇は「MIKADO」と英訳されていたそうです。ところがキーンさんが手にした英訳本の源氏物語の中の天皇、つまり「MIKADO」は報道で語られている卑劣なリーダーではなく、恋ばかりして、詩歌をこよなく愛する文化人でした。同じ「MIKADO」であるのに性格がまったく違うことにキーンさんは戸惑ったそうです。そして日本に興味を持ったキーンさんは日本語の教科書を手に入れて日系人の方について日本語を勉強し始めます。
まもなく1941年12月7日を迎えます。日本軍による真珠湾奇襲攻撃が起こり太平洋戦争が始まりました。このときアメリカ軍は全米から日本語を学んで諜報活動ができる兵士を育てる行動に出ます。キーンさんは渡りに船とばかりに海軍日本語学校に入学しました。
なにしろ16歳でコロンビア大学に入学できるほどの天才ですので、米海軍日本語学校でも一番上のクラスに入り、そこで徹底的に日本語を学んだそうです。一クラス6名で日本史、会話、書き取りを学習するのですが、やはり漢字は大変だったそうです。それでもキーンさんは日本語の世界が面白くてたまらなくって休みの日にも日本語を使って暮らしていたぐらいでした。