一日の休みを挟んで第三局、第四局が行われました。しかし両者とも決め手を欠いてどちらも引き分けの結果になりました。解説のバルボ氏は語ります。「少なくともわたしが見ている限り第三局はカスパロフが勝てたと思います。展開は悪くありませんでしたから。しかし試合後の記者会見でカスパロフは三局目についてはいっさい話さずに二局目のことしか話さなかったんです」
三局目のあとのカスパロフの言葉です。
「二局目の36手目についてはディープブルーもクイーンを動かす手を考えていたはずです。わたしは一日掛けて徹底的に分析しました。しかし、あの場面でなぜディープブルーがクイーンを動かさなかったのか、その理由がまったくわからないのです」
実は二局目の36手目についてディープブルーも最初はクイーンを動かす手を考えていたのです。
あの場面、一手前の34手目を打ったと同時にディープブルーは次にカスパロフが打つ手を正確に読み、その上で検索に入りました。すると8手先にプラス86点になる格好の手を見つけたんです。そこにつながる36手目はクイーンを動かす一手だったのです。このときまではディープブルーも人間と同様にクイーンをうごかす手を考えていました。
ここまでにかかった時間はわずかに二秒。
さらに高速計算を進めていきます。そして36手目にクイーンを動かす前提での9手先の最高点がプラス79点という高得点であることを確認します。さらに10手先の最高得点がプラス70点であることを確認します。
しかし8手先、9手先、10手先と点数が下がっていくことにディープブルーの警戒システムが作動します、そして11手先の未来の最高点がプラス46点にしかならないことを確認します。これがカスパロフの反撃計画にディープブルーが気がついた瞬間でした。
この時点でディープブルーはクイーンを動かす一手を断念します。するとアラームが点灯しパニックタイムという予備の時間が作動しました。そして検索し始めておよそ6分後に11手先の未来にプラス68点につながる格好の一手を発見したのです。これが人々を驚嘆させた一手となったんです。