今回は、菅野泰蔵編『こころの日曜日 44人のカウンセラーが語る気持ちのほぐし方』(朝日文庫)をご紹介します。本書が、単行本として出版されたのは、10年以上も前のこととなりますが、大変好評を博しておりました。この10年、社会はものすごい速さで変貌を遂げつつありますが、本書に改めて目を通しますと、今現在においてもそのまま役立てることができる大切な考えの糸口がいっぱいです。全5章から成り立っていますが、幾話か、ピックアップをしてみたいと思います。
1章は「いろいろな生き方、考え方」が提案されています。その中に、「転職の神殿*ファミコンから学ぶ人生」という節があります。・・・人気を博したドラゴンクエスト?Vの中の固有の特徴を持ったキャラクターがおり、例えば、体力があり多くの武器を装備できるが賢さに欠ける「戦士」、戦闘力も体力もないが運が強い「遊び人」など固有の特徴を持ってるのですが、冒険の途中で「遊び人」が「戦士」にと、人格を変えることができるのだそうです。これを「転職」と呼びます。転職すると、単に変わるだけではなく、両方の特性を合わせ持つことができるようになります。しかし、「転職」にはリスクがつきもので、転職すると新しい職場においては新米で、手に入れた能力が十分発揮できないばかりではなく、前の能力が半減し一時的には極めて無力な存在になるのです。このドラクエにおける「転職」を心理相談と似ていると、この節を書かれた小柳先生は指摘しています。心理相談では、「生き方の変更」が行われることがしばしば起こります。例えば、親の愛情を得るために「良い子」を演じ、自分の欲求を殺して生きてきた人は、青年期に至って何をしてよいかわからなくなり無気力になったりします。また、生き方の変更が必要なのは、不適応が生じたときばかりではありません。発達段階によって必要とされる資質は変わるのであり、それに応じて何度か変更を迫られます。しかし、生き方の変更とは、ドラクエの転職と同様、今までの力を一旦失うことであり、新しい力が手に入る保証もない不安定な状況に身を置くことでもあります。慣れ親しんだ生き方を断念することは、大きな苦しみや悲しみを伴います。新しい生き方を見つけるにはムダとも思える長い模索が必要になります・・・
2章は「『自分』とのつきあい」となっています。この章では、「うしろむきの経験」のもつ意味を問い直し、「前向き」にと焦りすぎることを考え直してみたり、自分をつくったり飾ることを良しとしない風潮もありますが「よそ行きの顔も大事だ」と提案してみたりと、私たちが当たり前のように「良し」としていることに疑問を投げかけてくれます。また、「悩み方にもくせがある*なるべく上手に悩むには」という節では、悩まない生き方を「良い生き方」とするのではなく、自分の悩み方のクセ、例えば、悩みが起こるとそれを解消しようとすぐ行動を起こすクセ、悩んでしまいそうなことからは距離を置き素通りをしてしまうというクセ、悩みが起こるとそれを自分一人で引き受け誰にも話さずに自分で解決しようとするクセが挙げられていますが、を良く知って、そのクセの役に立つところと逆に問題をこじらせてしまうところを把握し、悩みの大きさや状況に応じて、それに合った悩み方をするのが「上手な悩み方」ではないかと自分との付き合い方のひとつを示唆してくれています。
4章は「ストレス社会を生きる知恵」となっており、近頃、ともすれば、「解消」 の方向にばかり焦点が当てられがちですが、もっといろいろな対処の仕方を知っておく必要があるということを教えてくれます。
・ストレスと戦う…情報を収集して解決のための戦略を立てて実行します。
・ストレスに慣れる…寒さや暑さに慣れるように、つらい事態にも少しずつ慣れることで感じ方が軽減されます。
・ストレスにしない…同じ事柄でも被害的にとらえたり、マイナスに考えたりすることでストレスのなっている場合が多いものです。 事態を客観的に見直すことをすると、ストレスにならないものです。
・ストレスを回避す、逃げる、かわす… いやなことに直面しそうだったらスタコラ逃げてしまいます。 ストレスになる人から電話がかかってきたら居留守を使っちゃいます。
・ストレスを据え置く…困った事態になったときは心はパニック状態。 少し時間をおいて、自分の快適な状態を作ります。 とりあえず、ゆっくり入浴、明日になってから考えるなどです。
・ストレスを取り込む…起こった事態の良い面を見つける。 あるいは良いものに変えるのです。 敵を味方にしてしまうのです。
・ストレスに浸る・・・思いっきり泣いたり、愚痴ったりします。 十分感情を表出するとすっとするものです。
・ストレスをかみ砕いて呑み込む…事態を分析し、できることから妥協するのです。
・ストレスを合理化する…かえって良かったと思う。 失恋したら、「たいした人じゃなかったから、別れてかえってよかった」と、自分なりの理屈をつけて心が傷つくのを防ぎます。
等々。いろいろな方法をやってみて、自分なりのストレスとの付き合い方を見つけることです。
5章は「人の心はさまざま」、ということで、こころの捉え方や距離のとり方にも、多様な、そして個々に合った考え方があって自然なことですよ、というメッセージがいっぱいです。 「目先の欲にとらわれてみよう*とかく心の整理はつかぬもの」 「心を決めつけることはない」 「自分が良くわからなくても大丈夫」「心模様は不確実だからおもしろい」「面白半分、いやいや半分*きたないものはそのままに」等々。
巻末の、体から心に働きかけるリラクゼーションとして、自律訓練法入門が載せてありますのも、著書の親切なところ。緊張しやすかったり、ライフサイクル的に自律神経に失調を感じている方々にも、自律神経って、案外、手なづけることができるんだなと、お助け情報になるかと思います。