学園日誌

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学園日誌

家族療法

今回は、朝日文庫より出版されています、著者平泉悦郎、監修福田俊一『家族療法』をご紹介します。不登校や非行、摂食障害といった様々な子供の問題を抱えた家族が、全部で8家族、登場します。
では、まず、本書を通じて中心を成す理論、「家族システム論」について説明をします。

「・・・この理論は、家族は祖父母、夫婦、子ども、孫などいくつかの機能を持った構成員が集まった「システム」だと考える。

世の中には学校というシステムもあり、会社、地域社会といったさまざまなシステムもあるが、誕生から結婚、そして死までを過ごす家族というシステムは、個人にもっとも大きな影響を与え、個人もまた家族システムに大きな影響を与えているとみる。時の経過とともに、家族の構成員は変化し、家族システムもまた変化する・・・一人一人の家族構成員は相互に関係を持ちながら、システムは変化し続け、家族の中に起こる様々な問題を解決し、健全に機能していく。だから、家族は「問題解決システム」ともいわれている。しかし、ある問題をうまく解決できなかったとき、家族は問題を抱え込んだままのシステムとして落ち着いてしまう。登校拒否、家庭内暴力、非行、拒食等々の「心の悩み」は、こうしたうまく機能できなくなった家族システムから生まれる。見方を変えれば、家族関係の歪みがこうした「症状」を生み出すといってもいい・・・問題を起こした子どもにあるのではなく、その子を抱えた家族の在り方、つまり、「家族相互の関係」にある・・・そこから抜け出すためには、システムが健全に機能するような「家族の関係」に変化させなくてはならない。家族が「問題解決システム」として動き出せば、悩みはおのずと解決へ向かうはずである。(たたし、問題の中心が学校や会社など別のシステムにあるとわかったときはそちらへアプローチしなければならない)」そして、家族システムの中でにおけるコミュニケーションの癖を「家族ルール」と呼びます。
「・・・どの家族にも長い間育ててきたその家族独自の、暗黙のルールがあります。このルールは家族という非常に難しい生き物を動かしていくのにぜひ必要な、大きな役割を持つものです。ルールそのものには、いいルールも悪いルールもありません。しかし、ひとたび悩みを抱えた家族に面接をするときは、そうした「自分たちで悩みを解決できなくしてしまったルール」とは何かを探っていきます・・・」

また、家族療法にはいくつかの学派があります。その一つの構造的家族療法と呼ばれる学派では、「世代間境界」という考え方を重視します。
「・・・夫婦・両親は時には親の立場を離れ、夫婦として関心を持ちあう、いわば、夫婦と子どもの間に引かれた境界線、「けじめ」のことです。もちろん、子どもの年齢によって、親は十分な注意を払うことが必要ですが、こうしたけじめをつけることで、子どもは「親は親、子どもの問題は子ども」という考え方を身につけて、次第に独立していくのです・・・」

そしとて、「夫婦連合」あるいは「両親連合」という在り方を大切にします。
「・・・夫婦は、あるときはけんかし、またあるときは仲良くしてもいいから、十分に交流のあることです。その交流の中で、夫婦はいろいろな分野で相手のすることを支持するパターン、チームワークをつくりあげていくのです・・・」

この二つの考え方は、本文の家族ドラマの中にも繰り返し繰り返し出てきます。そして、この対になるのが「世代間連合」という在り方です。「・・・どの家族にも物事を決めるときは、けんかするにせよ、仲良くするにせよ、だれとだれが多く話し合うか知らぬ間にルールができあがっている。「世代間連合」とは、片方の親と子どもがどんな場合でも連合して物事を決める親子関係をいう。こうなると子どもは自分の立場を見失い、もう一方の親はどうしても子どもと疎遠になってしまう。両親を心配する優しい子どもほど親は取り込みやすく、子どもも親の問題に深入りしやすい。健康な家族なら、親の世代は連合し、子どもの世代との間によい意味での無関心があって、大事な場面だけ子どもに注意が向く「けじめ」がある。このけじめが育っていれば、子どもは外の世界に適応しやすいし、両親のいがみ合いに悲しい気持ちにはなっても情緒障害は起こさない。ここでいう「両親連合」とは、夫婦が必ずしも仲良くなければならないという意味ではない。仲がよいにこしたことはないが、親は親だけの問題について、たちえけんかはしても、子どもを巻き込まない形を指している・・・」「巻き込まれる」とは、夫婦間に何か問題が起こったとき、いつも一方の親が「ねぇ、ちょっと」と子どもに声をかけ、援軍につけたりすることをいいます。このスタイルにならされれば、子どもは事あるごとに両親の問題に首をつっこむことになってしまいます。
他にも、家族療法の視点、治療技法の特徴があります。その一つに、家族に起こる出来事のプラスの面を強調し、「肯定的意味づけ」を与えることが挙げられます。極めてまずいと見えることも、違う文脈からみると、非常にいいと判断できることがあるのです。いろいろなものの見方、考え方によって、危機とみえるものが新しくプラスのものに展開していく。危機の中には、そうした芽がたくさん含まれているのです。
また、一度試していただくとおもしろいと思えるのが、「家族地図」を家族全員で作るという作業です。だれとだれれがよくおしゃべりをするか、けんかをしても仲良くても、とにかく交流の量の多い家族は三本線で結び、まぁふつうの場合は二本線、あまり交流のない関係は一本線でつなぐ、そうしてできあがるのが「家族地図」です。家族療法では、問題はその子個人にあるのではなく、家族のいろいろなところに潜んでいて、子どもの症状は家族全体の行き詰まりの結果だと考えます。この問題点を指摘しつつ、しかも家族の中でだれが責められるものでもないのだということを示しながら、言葉より有効に働くことがあるのがこの「家族地図」です。家族が自分たちで描いた地図は、おのずと家族全体の状況に目を開かせてくれます。
その他、もちろん専門家のもとで試されるのが適切ではありますが、バランス理論と呼ばれる人間関係の理論の適用、ある会話に対して自分の本音である「心のつぶやき」を記入してみる技法など、関係性の在り方を振り返り、視野を広く持って全体を見るためのこつが随所に説明されている著書となっています。


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