学園日誌

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学園日誌

NEET(ニート)への取り組み

2004年は、流行語大賞にNEET(ニート)という言葉がノミネートされました。NEET(ニート)とは、Not in Education,Employment or Trainingの頭文字を取ったもので、教育や就労、あるいはそのための訓練過程に属さない、いわゆる社会から引きこもっている人々を意味します。厚生労動省が9月に発表した数は、52万人。2010年には、100万人規模に膨らむという試算もあります。NEET(ニート)は若者の犯罪との関連で社会問題として取り上げられることがたびたびありましたが、それ以上に、これほどの人的資源が活用され得ずに埋もれており、そのために被る日本の様々な不利益は甚大であろうという問題が見えてきます。今号では、いち早くNEET(ニート)に警鐘を鳴らした、宮本みち子著『若者が<社会的弱者>に転落する』(洋泉社)を読んでいきます。
この問題を国が取り上げ始めたのは
・・・モラトリアム期を謳歌する青年が増加する一方で、社会のリアリティから逃走する若者も増加する。平成元年度(1989年)の青少年白書は、若者の「反社会的行動」から「非社会的行動」へと関心を移した。青少年対策本部が、「社会への反抗」より、「社会からの逃げ」のほうがより厄介な問題になったことを公認したのがこの頃である。・・・今、若者の社会的基盤は徐々に変貌しつつある。しかし、その事実に対する認識は遅れている。
そして、その原因について
・・・これら社会のリアリティからの逃走は、”子どもがおかしい””若者が変わった”と見なされがちであるが、むしろ彼らの育つ過程で、家庭、学校、地域、その他あらゆる環境状況の変化の累積がこの転換をもたらしたのだ。成人期への移行期にさしかかったこの世代は、労働市場への参入、結婚市場への参入の二つの時点で、従来のようにスムースには移行をしなくなった。それは現在、”現実社会への参入に困難を抱える層”ができつつあることにつながっているように思われる。このような問題についても、親に”パラサイト”したり、労働意欲のない若者の「甘えの構造」にもっぱら原因を求める傾向が強く、若者をとりまく社会経済構造の変貌への気づきは弱い。転換期にある若者をどのように支援したらよいかを考えるよりは、若者パッシングになりがちなのが近年の特徴となっている。
われわれ大人は
・・・彼らに『早く大人になれ』というべきなのか、それとも別の生き方を期待すべきなのだろうか。これまでの価値観が無力化する中で、どんな選択肢がありうるのか、何が彼らにとって有益な援助なのか。この問に即座に解答を出せる者は誰もいない。子どもへの執着を断ち切り、成人年齢に達したら自立すべしと突き放そうにも、いまやスムースに社会に移行できるあてはない。周囲を見渡せば、就職できない子ども、就職したのにさっさとやめてしまった子ども、いつまでも結婚しない子ども、結婚後も依存する子ども、つまずきから引きこもる子どもを抱えて悩む親など、事例には事欠かない。しかも、問題の解決は当事者にゆだねられ、誰も助けてくれないという現実がある。高齢者福祉の貧困どころではない、若者の支援制度は日本ではまだ空白に等しい・・・若者の自立に関して「家族」と「会社」だけに委ねてきた日本の社会は、この危機に際してあまりにも反応が鈍い。当事者は若者や親であるといわんばかりで、検討の場ももたず、もっとも緊急を要する教育の転換や支援政策へとつながってかない。流動化と多様化の時代がもう始まっていて、誰もが不安にさらされているが、若い世代ほど厳しい状況に置かれているのだ。次代を託すのは彼らしかいないのに、現実への認識も生きていく力も社会に参加するチャンスも持たせない。この社会構造の中で、彼らはすでに社会的弱者である。今の社会をかたちづくる者全てが、当事者として支援にあたらなければ、明日の日本は破綻する・・・子どもたちが親とは全く違う時代を生きていかねばならないことに、親世代は十分気づいているとはいいがたい。いつまでも子どもを親の庇護の元に置くことができないのなら、社会が若者に新しい自立の条件を与えなければならない。


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