人と人との関わり合いは常に難しいものですが、その中でも特に、女性同士の人間関係の難しさ、トラブルの複雑さについて、耳にすることが多いように思います。坂内新生塾においても、女の子同士のメンバー間のトラブル、あるいはスタッフとメンバー間のぎくしゃく、またまた、相談にみえた母親から語られる母親自身が抱える問題のひとつとして、女性同士の関係の在り方に向かい合うことは避けて通ることのできないテーマのように感じています。そこで、今号では管佐和子著『彼女がいじわるなのはなぜ?女どうしのトラブルを心理学で分析』(とびら社)を読んでいきたいと思います。
著者は、「・・・世のなか大きく様変わりしてきたとはいえ、まだまだ男性優位の面が多いこの社会では、女性どうしが手を携え、支えあいながら、ともに発展してゆくべきであることは、誰もが感じていることです。ところが実際には、支えあうどころか、「女の敵は女」「女どうしが一番むずかしい」といった言葉がけっして死語になっていないのが現実ではないでしょうか。その理由を、女性自身(また人間自身)の備える性質に求めるか、あるいは、さまざまな面で社会的弱者の立場に置かれてきた結果とみるか、いろいろな考え方がありましょう・・・ただ、私たちがはっきりと直視すべきことは、「女性が手を携えて歩んでゆくのは簡単なことではない」という現実が確かに存在している、ということです。カウンセリングの場を訪れる方々のなかにも、この問題に傷つき、悩んでいるケースがたくさんあります・・・「女性どうしが気持ちよく支えあって生きてゆけるようになるには、お互いがどのようなことを認識しておけばよいのだろうか・・・」というテーマを追求したくなりました。そのためにはまず、「なぜ、女たちが傷つけ合う事にならざるを得ないのか?」ということについて、さまざまな立場から切り込んでみる必要を感じました・・・」と、切り出しています。女どうしというと、たとえば友達どうし、職場の同僚OL、嫁姑、母娘、姉妹・・・とたくさんの関係が浮かび上がることでしょう。この女性どうしがさまざまな場面で繰り広げる確執について、14人の物語として、相談の手紙の形で示されています。そして、この14編に対して、男女ひとりずつの心理療法家が解釈を行っています。読んでいきますと、これらの物語には、嫉妬・羨望・競争心といったテーマが潜んでいることに気づきます。それを主題に物語を作ろうと意図したというより、日常生活の中でよく目につく問題を取り上げていくと、どうしてもそうなってしまったそうです。
例えば・・・
?去年は仲良しだったのに・・・
新学期のクラス替え後、仲良しだったクラスメイトの態度が急変。手のひらを返したように冷たくなった彼女の心理とは?
?女王蜂は自分だけでいいの?
見事キャリアアップした憧れの先輩OLが後輩の昇進の邪魔をするのはなぜ?私たち、先輩を応援していたのに!
?セクハラも贔屓のうち?
職場じゅうが迷惑していたセクハラ上司を組合に直訴。ところが、困っていたはずの同僚OLたちに総スカン。どうして???
「去年は仲良しだったのに・・・」への女性サイコロジストのコメントで、「いちばん怖いのは友だち」という章題がついています。「・・・今年大学を卒業して社会人となった女性が言うには、これまでの学生生活の中で、仲間との人間関係にもっとも気をつかっていたのは中学校時代で、高校、大学と上へ行くにしたがってだんだんとその必要がなくなってきたとのことである。おそらくこれが一般的なのだろう。そういえば昨日スクールカウンセラーへ相談に来たある女子中学生は次のように語った。「先生なんかぜんぜん怖くない。怖いのは友達。怒らせると、仲間を使って何を仕掛けてくるかわからないもん。先生はそんな仕返しをしてこないのわかっているから、怒られたって平気なの」。中学校では毎春、学年が変わると同時にグループつくりが始まる。そのときたまたま風でもひいてしまい、仮に一週間も学校を休んだりしたものなら、その一年を棒に振ることにもなりかねない。たとえその子がこれまでリーダーシップをとっていたとしても、新しい別のリーダーが存在し、旧リーダーは格下どころか独りぽっちにされ、これまでのプライドの置き場がなくなってしまう。上昇したり転落したりの可能性は、リーダー格だけでなくどの子にもあり、みんな「自分の立場がいつどうなるかわからない」不安に脅えている。グループの中では仲間の機嫌を損ねないように、言葉や行動や、果ては持ち物に至るまで、気を使っていなければならない。個性が強すぎてはいけないし、また弱すぎてもいけない。これは要するに便宜上の契約関係のようなものなので、学年が変わればそのグループも解散する。特に女子。独りでいると、変な子、暗い子と思われてますます孤立してしまう。たとえ仲良しを見つけて二人でいても、なにかの事情でその子がいなくなることもあるか考えると、スペアがないと不安で仕方ない。そして、その不安を間接的に相手への怒りとして持っている場合もある。お互いに「この子は私がいないと困るから、私を頼っているんだわ」などと思っており、グループからはじかれた似た者どうしの傷を抱えているものだから、お互いに、相手の中に自分の情けなさを見てしまうのである・・・」
これは、女性どうしの付き合いのほんの一部ですが、女性ならば皆が「あるある!」と思わず頷いてしまうくらいに身近に経験してきた思いではないでしょうか。その一方で、男性からすると、女性どうしの中でこのようなこぜりあいが常時行われているとは露知らず、驚きをもって受け取られるかもしれませんし、あるいは男どうしも案外変わらないなぁと思われるかもしれません。女どうしだけではなく、人間どうし、もう一度改めてその関わり方を見つめ、もっと上手につきあっていくための一助となりますように。