学園日誌

diary

学園日誌

働く姿勢について・・「スローキャリア」

三月は、出発(たびだち)の季節です。様々な相談の中で、就職について、アルバイトについてなど、「働くこと」がテーマとなることも多くあります。「働くこと」はまだまだ未知の世界で、どうしても不安が先行するようです。不安の中身は、人それぞれで、将来の夢はあるけれどもどう実現していっていいのかわからない、自分が何がやりたいのか、何が適しているのかわからない、社会、世間といったものが漠然と怖い、等々。そんなときに、ふと、一冊の本を手にすることがありました。高橋俊介著『スローキャリア 上昇志向が強くない人のための生き方論』(PHP研究所)です。インタビューにて、高橋氏が、この著書を書かれた動機について「心理学的に言うと、不安と不満はまったく別物なんですね。不満というのは、原因がハッキリしているんですよ。『これが不満だ、ここが不満だ』って。だから、原因を取り除いてやれば、不満の解消はできる。ところが、不安のほうは、何が原因なのか、本人ですらハッキリ認識していない。解消のしかたがわからないのが不安なんです。不満解消よりも、不安解消のほうが難しい。そこで、ぼくは、そんな不安は持たなくていいよ、と言ってあげたかった。不安がっても、しょうがないじゃん、と。あまり楽天的過ぎてもいけないんだけど(笑)。」と語っていましたのが、関心を持ったきっかけでした。「働く」ということについて思いをめぐらせるときの一助になるのではと思い、「スローキャリア」という働く姿勢について紹介したいと思います。
「スローキャリア」は「スローフード」という考え方に影響を受けたと言います。経済効率優先型ファーストフードの対極に位置する「スローフード」は、徹底的に食べ物の質とプロセスにこだわる究極のグルメであり、同じように質にこだわる働き方やキャリアがあってもいいじゃないか、という点が「スローキャリア」の出発点だそうです。著書の冒頭より、「あなたはキャリアについて勘違いしていないか」と、改めてキャリアについて考えさせる問いかけから始まります。そして、人生には勝ち負けなどない、キャリアアップもダウンもない、強いて言えばその人自身が判断する幸せなキャリア、不幸なキャリアというのがあるだけ、要するに何を大切だと思い、何に重きをおくのかは個人が自由に選択できることであり、同じようにキャリアも選択できるものであって、他人から評価されて受容するものではない、と納得させられていきます。しかしながら、私たちは、今でこそ偏差値、学歴重視社会の崩壊が進んでいるとはいえ、幼い頃より上昇志向を植えつけられ、多かれ少なかれ「上昇志向の呪縛」に囚われています。ビジネスパーソンの予備軍である学生の調査分析によると、キャリアの捉え方は、「焦り症候群…勝ち組になりたいとキャリアを焦っている」タイプ、「逃避症候群…どうせ勝ち組にはなれないと諦めている」タイプ、「思い込み症候群…自分の進むべき道はこれと決めて職業選択をしようとする思い込みが強い」タイプ、「考えすぎ症候群…やりたいことも分からない自分を駄目だと自己嫌悪に陥る」と考えるタイプと、おおまかに4タイプに分けられるそうです。確かに、上昇志向という動機付けによって力を発揮する人もいます。しかし、著者は上昇志向でない動機、つまり人と仲良くしたい、人を理解したい、人から感謝されたい、そして自分で決めたい、細部まで徹底してこだわりたいという価値観を生かしたキャリア形成を推奨します。あらかじめ達成すべき数字や目標があるのではなく、自分のポリシーや価値観に従って、対人関係を含めた仕事のプロセスの中で、自分で自分の人生をマネージメントしながら日々生きていき、振り返ったとき結果として後ろにキャリアができている、これを「スローキャリア」と称しています。
今の子ども達の親御様方は、「働く」ことは、生きるうえであまりに当然の営みであり、上記のように振り返るゆとりなどなくがむしゃらに働いてこられた方々がほとんどかも知れません。そうやって働くことができた方々は、確かに幸せなキャリアのひとつの形を作ってきたのでしょう。しかしながら、なぜか次の一歩が進めずに、立ち止まってしまうとき、それは、今の自分の人生に何が不足していて、自分が何を望んでいるのか、欲しているのか、改めて問い直す大きな好機です。そんなときに、このような働く姿勢があるということを知ることも、自分の生き方を考えるためのひとつの情報となるのではないでしょうか。


ホーム