学園日誌

diary

学園日誌

傷つくのがこわい

現代の社会に傷つけられ、人間関係に苦しむ若者が増えています。不登校もその一つです。
彼らへの共感をこめながら、心理療法を基礎にした処方箋を説いた、根本橘夫著『傷つくのがこわい』(文藝春秋)を、今号はご紹介します。
引きこもりやリストカット、フリーターの増加など、「打たれ弱い」いわゆる、傷つきやすいといわれる若者の増加が社会問題化しています。
中年を過ぎて傷つきやすさを再確認する人も多くいます。現代人はなぜ、どんな風に傷つくのか。さまざまなタイプの傷つきを分析してみましょう。それは、原因探しが目的なのではなく、由来を知れば、「傷つきに耐える心」に近づくことができるからです。
傷つき競争・・・私たちは他の人の何気ない言葉や行為、何気ない態度に傷つけられることがあります。
とくに思春期から青年期の心は、とても傷つきやすいものです。 ちょっとしたことで、心がかき乱されれるばかりでなく、生活全体に揺らぎが生じてしまいます。
青年期には、心の傷つきやすさを競っている面もあります。 傷つきやすいのは、感受性が豊かであるとか、心が純粋であることの証拠だ、などと感じるからです。
早く大人になりたい、大人になったら、傷つきやすい心から抜け出せるから。思春期にそう思った人も少なくありません。
でも、大人の心もそんなに変わるものではありません。 大人も傷つきます。 親がなぜこんな言葉にこれほど感情をあらわにして怒るのか、とびっくりした経験をきっと思い出せるはずです。 子どもと同じように、大人も劣等感を刺激されたり、自尊心が傷つけられたりするからなのです。
ほとんどの人が、「自分は傷つきやすい人」と思っています。 そして、相当多くの人が「自分こそ世界で一番傷つきやすい人」 とさえ思っています。
他の人から見るとこっけいですが、ひげもじゃの男でも、筋肉隆々とした男でも、「自分は傷つきやすい人」 だと思っていることが少なくないのです。 そして、また、多くの人は、自分以外の大多数の人を「無神経な人」 だとも思っています。 無神経な方が楽に生きられるとも思っています。 「無神経な人」 とバカにしながら、同時にその強靭な心に嫉妬しています。
しかし、人が外に見せる顔と、内面は異なります。 本当に親しくなり、その人の内面に入り込むと、明るくて屈託がないと見えた人が、実際には傷つきやすいことを知って、びっくりすることが少なくないのです・・・と「傷つき」が、私たちの身近な問題であることを教えてくれます。
傷つきたくない・・・傷つきたくないために、私たちはいろいろな防衛機制を用いています。
それが、生活のベースになっている人もいます。 自分自身にさえ、傷つくことに対する防衛を行っています。
たとえば、試験のときに、自分の出来具合を低く見積もっておくということをしなかったでしょうか。 低く見積もっておけば、実際に点数が低くてもそれほど傷つかなくて済みます。 逆に、ちょっとでもそれよりも点数が高ければ、本当の自分は能力があるんだ、と思うことができます。
人間関係では、お互いに深く入り込まないことで、傷つくことを避けようとします。 尊大感と卑小感を持ちながら、本音では語らない。
人の中では嫌われないように演技する。 そんな姿が思春期から青年期の少なくない人の内面の姿です。本当は自分が傷つきたくないためなのに、お互いの心に入り込まないことを「やさしさ」だと思っています。そして、若い世代では、これが一般的な付き合い方のルールになっています。・・・
それでは、私たちの心はどのような場面で傷つくのでしょうか。
その主な場面を見てみましょう・・・
信じていた人に裏切られたとき、
努力や誠意が踏みにじられたとき、
触れられたくないことに触れられたとき、
失敗や能力のなさが明らかにされたとき、
責められた時・ 非難された時、
人なかでの恥ずかしい出来事、
軽く扱われたとき、
自己欺瞞を自覚したとき、などです。
傷つくということは、自分が価値ある存在であるということが脅かされることがその中核にあります。 これは、不快でつらい感情体験です。
このために、傷つくということを改めて分析的にとらえようとすることは、気の重い作業です。
それでも、傷つくことを丁寧に見つめてみると、いろいろな感覚や感情が含まれていることに気づきます・・・
怒り、憎しみ・恨み、悲しみ、正当性への疑惑、蹂躙されている感じ、無力感と屈辱感、絶望感と人間不信などです。
そして、傷つきやすい人といっても、そこにはいろいろのタイプがあります。 代表的なものを挙げると・・・
完全防御傷つきタイプ、
自身欠如傷つきタイプ、
自罰的傷つきタイプ、
被害妄想的傷つきタイプ、
被虐的傷つきタイプ、
自己中心的傷つきタイプが挙げられます。
また、傷つきやすい人の特徴としては・・・
感受性がマイナスに作用、
課題よりも人間関係に注意が向く、
評価や嫌われることを過度に気にする、
競争心が強い、悪意と受け取りやすい、
気をまわしすぎる、マイナスの感情を広げてしまう、
傷つきさゆえの優しさ、
さげすみとねたみ、が強いことがわかります。
そして、傷つきやすさの根底には自己無価値間が潜んでいるといいます。
その上で、心理療法に基づく「傷つきへの対処法」も紹介されています。
次号では、その対処法について、ご紹介していきましょう。


ホーム