学園日誌

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傷つくのがこわい2

先号に続き、根本橘夫著『傷つくのがこわい』(文藝春秋)をご紹介します。
先号では、傷つきやすさの根底に自己価値観の希薄さがあると伝えましたが、そのほかの諸要因として以下が挙げられます。
■ 傷つき体験の乏しさ : 傷つき耐性が低い人は、傷つくのが怖いので、人と交わる機会を自ら狭めてしまいます。
このために、一層傷つき耐性が弱化されてしまうという悪循環の中にいます。
■ 感情処理能力の弱さ : 傷つきやすい人の心の問題の一つは自ら傷口を広げてしまうことです。
すなわち、傷つきやすい人は、マイナスの感情を心全面に広げてしまい、
日常生活にまで影響を受けがちです。
そして、この日常生活での混乱が、いっそう自分をストレスフルな状態に追い込んでしまいます。 子どもが一人の存在として尊重されず、それゆえに「すねる」とか「ぐずる」ことで初めて意志を通すことができるという育てられ方をした場合、感情を乱していることが状況を打開する武器になります。
このために、「気分を害する=傷つく」 という対処法を多用することになり、健全な感情処理能力を育てることができません。 こうした人は、自分が傷つきやすいと思っているのですが、じっさいにはその傷つけられたという不機嫌さで人を支配するようになります。
周囲への迷惑を気にせず、傷ついた心の不機嫌さをそのまま出し、すねたり、いこじになったりして、自分の欲求を押し通すのです。
逆に、「泣くんじゃない」とか「細かいことを気にするな」など、ただじっと我慢することを求められたり、いつでも理性を優先する感情処理の仕方を求めて育てられると、自分の感情を発散させるのではなく、抑圧する方向へと向かいます。
こうした人は、自分の感情とは裏腹な行動により、その場を取り繕う態度を身につけてしまいます。 その結果、表面では屈託なさを装いながら、内面は傷ついており、恨みや敵意の感情を秘かに蓄積していくような心理傾向になります。
子どもの感情表出を不必要に抑えることもなく、子ども自身が感情を処理することを気長に見守ってあげる。こうした親の態度が、子どもの感情処理能力を育てていくのだと思われます。
■ 無意識の甘え : 周囲の人に裏切られて傷つくことが多いと感じている人は、甘えと依存心が強い人である可能性があります。
■ 過度の自責感 : このタイプの人は「確かに悪意で行動する人も、この世には少しは存在する」 という事実を受け入れる必要があります。
そして、そういう人とは、きっぱりとこれを機会に縁を切ることです。
傷つき体験を、よい機会にすることです。 万一、傷つきが誤解や状況のせいであれば、そして、相手が本当に信頼できる人であれば、時間の経過が再び関係を修復してくれるはずです。
■ 柔軟性のない価値観 : 柔軟のない価値観を持つ人は、自分が傷つくだけではなく、周囲の人を傷つける人でもあることが少なくありません。
■ 親とのトラウマの再現 : 親に対する感情を、親以外の人に無意識に向けてしまうことを一般に転移といいます。
ある男性は、妻のちょっとした言葉に傷ついてしまいます。
例えば、夫が出掛けに「僕の定期券、知らない?」と妻に聞いたとき、「だから、いつもカバンに入れておくように言ってるでしょ」と妻が答えたとします。
妻の方は夫を非難しているつもりはないのですが、我の強い母親にいつでもこうした返し方をされて育った夫は、妻の言葉が母の言葉と重なり合い、母親にしかられている自分を再演してしまうのです。
■ 欺瞞と空虚な内面 : このため、他の人が自分をどう見ているかがいつでも気になり、自意識過剰にならざるを得ません。
この過剰な自意識のために、他の人の何気ない言葉やしぐさが自分の欺瞞性や空虚さを脅かすものに感じられ、傷つきやすいのです。
■ 自己防衛としての高いプライド : プライドが高いから傷つきやすいのだと、単純に考える人がいます。
そうではなく、この高いプライドの根底には自己無価値感があるのです。
高いプライドは、この自己無価値間の上に立つ砂上の楼閣だからこそ、傷つきやすいのです。 こうした防衛的なプライドは自分の本来の充実感や満足感を大事にすることを放棄して、自分の価値をもっぱら他の人の評価によって実感しようとすることです。
しかし、他の人がどう思うかは、その当人が決めることです。
ですから、自己価値が実感できるかどうかは、相手次第ということになります。
また、思春期から青年期にかけて、多くの人が傷つきやすくなります。
■ 感受性の高まり : この時期には、脱中心化といって、第三者の視点から自分を見ることができるようになります。
この内省能力の発達により、感受性が高まります。
■ 身体的魅力の比重が増すこと : さらに、第二次性徴に伴う自己価値の変化があります。
同時に、性ホルモンは心にも影響し、異性への関心や性的欲求を強めます。 内省能力の 発達ともあいまって、自分の身体が異性から関心を持たれる身体であるかどうかが、自己価値観に大きな影響を与えるようになります。
■ 実力としての能力が試されること : 思春期以降に要求される能力と、子ども時代に要求される能力は異なります。
青年期になると、自分の判断と決断が求められるようになります。
さらに、自分で働いて生きていかなければならないという課題が現実的な課題として近づいてきていることを感じます。
思春期と若い青年期、年齢で言えば、12歳頃から25歳くらいまでが、一番傷つきやすい時期です。
これを過ぎると、自分を受け入れるようになります。
主要な関心が、内面よりも外界に向かうようになります。
他の人から見た自分を気にする程度が低くなります。 こうしたことから自分を傷つけがちな感受性が低下していきます。
傷つかない人などいません。問題は上手に対処できるか、できないかです。
上手な対処とは、傷ついた心を抑えることではありません。 傷ついた心を長引かせてしまわないことであり、傷口を不用意に広げてしまわないことです。 そうした対処法を以下に紹介します。
■ 感情を吐き出す : 心傷ついてつらいときには、自然な感情に任せることです。
自分の現在の心の状態を知ってもらって、とにかく今は、感情を受け止めてくれるように信頼できる人に求めることです。
傷つきの程度に応じて、元に戻るにはある程度の時間が必要だと割り切り、素直な感情に身を浸すことです。 「これではいけない」「しっかりしなければ」「情けない自分」。そんな風に思わずに、元に戻るために必要な一時的な状態なのだと割り切ることです。
■ 憎しみへの対処 : 憎しみの感情が開放されないと、怨念や復讐心としなって持続します。
憎しみや恨みなどマイナスの感情も喜びやうれしさと同様人間の生の衝動です。
憎しみや敵意も、適切な形で外に出せることが心の健康にとって必要なことなのです。 どうしても憎しみの感情のはけ口が必要なら、次のようなことをしてみてはどうでしょうか。
スポーツをする、サンドバックを殴る、バッティングセンターに行く、ゲームセンターでもぐらたたきなど心ゆくまでたたく、壊してもいいものを思い切り壊す、カラオケで存分に歌う、新聞紙を気の済むまで破る、新聞紙を丸めてそこらじゅうたたく、等々。
■ 傷口を広げない : そのためには、日常生活の必要なことを実行することを目標にすることです。
また、仕事仲間など、迷惑をかけてしまいそうな人に対しては自分の心の状態を伝えておくことです。
■ 支えを求める : 傷口を広げないためには、一人で抱え込もうとしないことです。
必要なときに、甘えられること、依存できることは健康なことなのです。 自立することは甘えたり依存しなくなることではありません。適切に甘え、適切に依存できるようになることなのです。
■ 身体を動かす
■ 好きなことに熱中する
■ 眠るために … どんなに眠くとも、朝はきちんとした時間に起きることです。
■ 元気を出すために … 光に当たる、生活を規則正しくする、行動を優先する等があります。
■ 事実を見直す … 傷つくことはつらいけれども、そこには自分の成長に役立つ貴重な材料が含まれていることが少なくありません。
■ 過去のことと割り切る
■ ストレス対処法を実践する : 様々なストレス対処法があります。 簡単なリラクゼーション法、自分に言い聞かせ自分を刺激するセルフ・ ステートメント(陳述)法、傷つけあわない接し方を学ぶ主張訓練法等々。
西濃学園では、日々の学びの中で、心の教育の充実を大切にしており、このようなストレス対処法についても学んでいます。


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