学園日誌

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10代のメンタルヘルス【9】-2 喪失感

引き続き、10代のメンタルヘルス?H 喪失感 (大月書店) を紹介します。

大きな喪失が起こると、激しい心の痛みと悲しみがもたらされます。

親の離婚によって家族がばらばらになってしまったり、ペットが死んだり、恋人との別れなど、他人にはわからなくても自分にとって大切なものであれば、失うことは大きな喪失になります。

誰にでも大きな喪失が起こる可能性があります。

そのために心の準備なんかできない、と思うかもしれません。けれど、いつか自分にも喪失が起こるかもしれないと思うだけでも準備になります。

予想していた喪失と突然の喪失では、受け入れ方も違うでしょう。

突然の喪失をどう感じるべきかは選べませんが、どう受け入れるかは選ぶことができます。

予測していた喪失は受け入れやすいものです。

前もって心の準備ができているからです。例えば引越しをすることがわかっていたり、悪い成績をもらうことが予測できたら、気持ちの準備をすることができます。

10代にとって、大切な人の死はもっともストレスの大きい喪失です。人生で初めて経験する重大な喪失になるかもしれません。

病気などで死が予測できる場合は、その人と思い出深い時間を過ごして、別れを告げることができます。

こうして、喪失感が少しだけ和らぐこともあります。

交通事故は、一瞬にして命を奪います。心臓麻痺や脳溢血も即死を招くことがあります。

このような突然の死は予測することができないので、家族や知人は大切なときを過ごすことも、別れを告げることもできません。予期していた喪失と、突然の喪失では、残されたものの感情に差があります。


大切な人が、突然死んでしまうと、残されたものには多くの疑問が残ります。

どうして自殺したんだろう?
どうして事故に遭ったんだろう?事故の原因は何だろう?

悲しみの上に混乱した思考がかぶさり、罪に意識や責任感で悩むこともあります。

突然、大切な人や物を失うと、まず「信じられない」という気持ちになります。

この状態を「ショック」と呼びます。

大きな喪失に対する第一反応がショックで、すべてがぼんやり見えたり、何をするのも困難で、何も信じられず、マヒ状態になったりします。ショックは、他にもさまざまな感情を引き起こします。

罪の意識、責める気持ち、恐れ、淋しさ、悲しみなどが、まぜこぜになります。このような感情が一度にやってくることもあります。ショックとは、身体がつらいニュースにゆっくり対応するために起こるのです。

ショックを受けているとき、身体は少しづつしか痛みを通すことができません。ショック状態では、自分の身体が他人の身体になったような気がすることがあります。

けれど、大きな喪失が起こったときの反応は人によって違います。泣き叫ぶ人もいれば、氷のように静かな人もいます。考えまいとして、忙しく走り回る人もいます。しばらくたって、時には何日も何ヶ月も何年もたってから、心の痛みをやっと外に出せる人もいます。

大きな喪失のショックが過ぎたら、苦痛にどのように対処したらよいかを考えていかなくてはなりません。

喪失感、悲しみ、空虚感が長く続くことは予測がつきます。

こうした気持ちをまとめて「悲哀の感情」と呼びます。悲哀の感情は、大きな喪失にはつきものです。

悲哀の勘定に対処していくことを「悲哀の作業」といいます。

大きな喪失があると、悲哀の三段階を通過します。この段階は、悲哀の作業の目安にもなります。

三段階とは、回避、向き合い、受け入れ、です。


第一段階は、回避です。事実を否定しようとし、喪失は起こらなかった、ただの悪い夢だった、と思い込もうとします。回避段階では、何が起きたのかをちゃんと理解することができません。気持ちが混乱していて、「どうしてなんだろう?」と疑問ばかりが膨らむのです。なぜこんなことが起きたのか、その問いと答えを要求することは、この段階では自然なことです。突然の喪失では、特にそうなるでしょう。


第二段階は向きあいです。喪失が起きたことを認め、向きあう段階です。この時期には、苦痛は小さくなるどころか、もっとも大きくなることがあります。喪失の前の状態に戻ることができないのは誰にでもわかります。それでも、戻りたいと思います。

例えば、既に死んでしまった愛犬の名が、思わず口から出てしまったとしたら、そのとたん、車に引かれたときのことがよみがえり、激しく大きな痛みに襲われます。このように突然襲ってくる激しい悲しみは、心に突き刺さるような痛みを与えます。この痛みはつらいものですが、喪失の現実に立ち向かわせてくれます。

つらい痛みが走るたびに、一歩ずつ悲哀の感情の中を前進していきます。悲しみに向きあう段階では、気持ちは混乱していて、理由のない怒りや恐怖や悲しみを感じたり、見捨てられたと感じたりすることがあるでしょう。こんな気持ちがいっぺんに襲ってきたり、全く予想してなかったときに感情の波が襲ってきたりします。


第三段階は受け入れです。毎日の生活の中で、少しずつ喪失を受け入れ、つらい痛みが和らいできます。受け入れの時期に達したことは、喪失を乗り越え始めたことの証です。昔に戻ることはできませんが、喪失を受け入れていくことはできるのです。少しずつ、また生きていこうという気持ちになります。

受け入れはゆっくりとした段階で、何年もかかることがあります。喪失感から起こる感情を受け入れていき、癒されていきます。


喪失から起こる悲哀の感情を乗り越えることについては、次号で詳しく紹介をします。





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