学園日誌

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甘えと反抗の心理


 今号は、福島章著『甘えと反抗の心理』(講談社学術文庫)をご紹介します。本書は1988年に書かれており、このめまぐるしく変化する現代においては、すでに古典となってしまっていないかという印象をもたれる方もいるでしょう。しかしながら、「より未熟な」甘えと反抗について理解することは、大人となることや自立することがより難しくなっている現状の打破に繋げることができないでしょうか。


 


 著者は、反抗や暴力といった攻撃性の背後に「甘え」という他者を求めるポジティブな欲求があること、さらに青年たちの甘えや反抗の背景には必ず「自分とは何か」「自分は何になりうるか」というアイデンティティの問いがある、といいます。さまざまな問題行動の中には、このような成長へのエネルギーが必ず存在するのだ、ということを理解の前提と、また希望としたいと思います。


 


<甘えと反抗の意味>


 …人に「甘える」ということと、人を「攻撃する」、あるいは人に「反抗する」ということは、一見すると正反対の行動のように感じられる…しかし、また別の見方もできるのではなかろうか。すなわち、「甘え」も「攻撃」もともに在る人間が他の人間に「働きかける」ことに他ならず、不安とか怒りとかいう個体内部の感情と違って他者に関係を求める行動である…また他の人々は「甘え」と「反抗」という組合せを耳にして、我が意を得たりと思われるかもしれない。それは、子どもや学生や部下の反抗や攻撃に直面した大人たちが「彼らは要するに甘えているんだ」と解釈したがる心理の背後に共通する態度である…しかし、ここで注意しなければならないことは、反抗や攻撃性の背後に甘えを見てとったからといって、それだけで若者たちが提起した問題が解決されるわけではないということである…反抗や攻撃の背景に甘えを見るということは、それによって安心したり、相手を見くびることによって彼らの反抗の意味を無効化しようとすることではない…また、その逆の現象にも注意する必要があろう。甘えや依存や親密さの中にも、秘められた攻撃性や反抗心が存在しないとは言えないのだ(このような愛と憎しみ、信頼と疑惑といった全く正反対の感情が同一人物に、同一の瞬間に抱かれる状態をアンビバレンスと呼んでいきます)。たとえば口唇的な段階(生後1年くらいの乳児の段階)への固着の例である。自分の思うようにならないとすぐ腹を立てて食ってかかる、「かんしゃく持ち」や「気むずかし屋」というのは、いつも相手に期待して誰かが自分のためにお膳立てしてくれるものと思い込んでそれを要求する甘えん坊と相場が決まっている。土居健郎氏は口唇期のアンビバレンスについて、「この時期の信頼関係が欠乏すれば、アンビバレントもまた極端となり、依存的傾向と攻撃的な傾向とが、あたかも相互に無関係のごとく、何ら統一なしに、同時に現れる」とアンビバレンスの関係としてとらえている。


 


 …不幸にして、彼の全体が他者によって受容され、自信と自立とが満足をともなって受容され、自信と自立とが満足を伴って育っていかなかった場合、彼の成人後の性格や行動パターンにはどのような特徴が表れることになろうか…これについては「甘えを知らぬ者」「甘えを恐れる者「甘え=攻撃型の人」などが、挙げられています。


 


<甘えと反抗の彼岸>


 …甘えあるいは依存欲求と、その不満によって生ずる攻撃心のアンビバレンスは、自立と自信をすでに獲得しえたよう思い込んでいるわれわれ大人の心理の中にもかなり根深くひそんでおり、他者に対するわれわれの好悪や憎しみや敵意の源泉をなしていることが多い。それではこの甘えと攻撃のアンビバレンスから脱却するにはいったいどうしたらよいのだろうか…「まず甘えを自らの中に発見することこそ必要」であり、「その上で甘えをもてあますのではなく、まして甘えを解放し実現するのでなく、甘えを自覚しながら、なおかつそれをあらためて自らの内に包み隠すこと」と説く人もいます。また、愛憎一如という言葉があるように、甘えと攻撃というつまずきの石になんどもつまづきながら、甘えたり悲しんだり怒ったり喜んだりして一生を終わるのもまた、人間的な感じがする…生きた人間はいつまでも目の前にいる人間に対して何事かを期待し、何ものかを求めては、満足したり、がっかりしたり、腹を立てたりすることをやめないのではなかろうか、という見方もあります。この甘えと攻撃のアンビバレンスから脱却する過程とは、また脱却したとはどういう姿をいうのかなどについて思うことは、人間存在の実存について思うことなのでしょう。


 


 今号では、甘えと反抗の絡み合いについてみてきました。次号では、反抗と攻撃性の「意味」を読み取りそれに正しく対応するうえで、より早期に端を発し、またより対応が困難な反抗があるということをみていきましょう。



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