学園日誌

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ひきこもり外来3


 今号も引き続き、中垣内正和著『はじめてのひきこもり外来』(ハート出版)をご紹介します。これまで、「ひきこもりからの回復―親の10ステップ」の


【親のステップ1】今までのやり方が無力だったことに気づく


【親のステップ2】深刻化した要因に気づく


【親のステップ3】母性の過剰と父性の不在


【親のステップ4】第三者の存在を活用


について、学んできました。今号は、残りのステップを学んでいきます。


【親のステップ5】夫婦そろっての参加に意義を見つける


 親の会に参加する8割が母親なのに対して、父親の参加率が極めて低いことが問題の本質を示してくれます。父親の参加が少ない理由は、第一に「世間体が悪い」ためです。もう一つの理由は、子育てを妻任せにしてきた経緯から、問題を妻任せにしてしまうことです。ひきこもりの本質は「孤立」です。すなわち、孤立とは反対に「力を合わせる方向へ転換すること」が解決へつながるということです。母親単独から夫婦へ、夫婦から親族全体、知り合い全体へ、更に専門家へと取り組みの輪を広げることが必要になります。孤立感を逃れることができたら、次の段階では、成功談や失敗談を聞いて刺激を受けることが大切です。問題解決のためには、さらに「勇気」が必要になってきます。これまでの適応主義の時代には、周囲と同じ生き方をすればよく、「勇気」などという概念はほとんど不要だったのです。勇気が社会的に不要な概念ならば、若者が勇気を出すことが苦手になっても不思議ではありません。「勇気の出し方を知らなかったから、ひきこもった」ということもできるのです。しかし、親が勇気を出すならば、それは当事者に伝わって、当事者も勇気を出せるようになります。わが子に勇気を求めるならば、まず親が率先して勇気を出してみることです。親の会・家族教室などに参加して仲間を得る中でその勇気はよみがえるのです。


【親のステップ6】親の価値観は通用しない


 親の育った時代背景に影響された、経済中心主義、会社中心主義、学歴主義と、しかも「右肩上がり」に努力が報われると信じる価値観を差します。すると、このようなことがおこります。8年のひきこもりからプログラムに参加した20代の男性は単位制高校への入学を決めました。しかし、父親はすぐに「絶対卒業」「バイク免許」「車の免許」「よい仕事」などと次々にまくし立てました。親の焦りが当事者を追いつめてしまう可能性についてもよく考える必要があります。また、試行錯誤から挫折にいたらないようにするためには、1年前の自分、3年前の自分、5年前の自分を振り返って、回復と変化と成長がある事実に気付いていくことが大切です。


「親のステップ7」親が人生を楽しむことが大切


「楽しむ」というと甘やかせばよいのか誤解する人がいます。「つれて来てください」というと無理やり拉致することかという人がいます。親の子の極端さは何なのでしょうか。たいていの場合、親自身の生活や考え方に余裕がないときに、こうした発言になります。がむしゃらであることは、時には必要ですが、それしかない、という価値観におちいると「別の生活を楽しむ」ことができなくなり、行き場がなくなってしまいます。そして、年齢主義からも自由になることで、自由な発想や、発想の転嫁にもつながります。


「親のステップ8」希望を抱き一喜一憂しない


「希望」は一見ありふれた言葉ですが、自我心理学においては、人の発達の原点にある大切な言葉として位置付けられています。「初めに希望ありき」なのであって、それが目的と意思を明確にしてくれるのです。これに対して「一喜一憂」という言葉は、「希望・意思・目的」の反対の言葉となります。むやみに動揺する親の感情が問題なのは、親の感情がすぐ当事者に伝わってしまうからです。「希望を抱く考え方に変えて一喜一憂としない」居直りの姿勢がよい結果につながるのです。


【親のステップ9】変化することの大切さ


 親として機能できることは、不登校がそうであったように、これまでと違ったやり方でひきこもりと向き合えるようになることが必要です。というと、すぐ「無理やり引っ張っていく」とか「実力行使」と誤解する親が多いですが、強制的手段だけでは問題は解決しないのです。まず、今までのやり方に誤りや偏り、限界があり、結果として無力であったことを振り返ります。次に、それまでの「親子間の距離のとり方」を変更する作業を行います。それは、夫婦間の距離を近くすることにもつながります。原則は単純で、「近すぎた距離は遠ざけ、遠すぎた距離は近づける」ということです。


 次号は、ステップ9の、距離を見直す4つのヒントについて学んでいきます。自分について、家族について直面することは、ときには、苦しく難しいことですがともに取り組んでいきたいと思います。



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