学園日誌

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ひきこもり外来4


 今号も引き続き、中垣内正和著『はじめてのひきこもり外来』(ハート出版)をご紹介します。もう一度「ひきこもりからの回復―親の10ステップ」をふり返ります。


【親のステップ1】今までのやり方が無力だったことに気づく


【親のステップ2】深刻化した要因に気づく


【親のステップ3】母性の過剰と父性の不在


【親のステップ4】第三者の存在を活用


【親のステップ5】夫婦そろっての参加に意義を見つける


【親のステップ6】親の価値観は通用しない


【親のステップ7】親が人生を楽しむことが大切


【親のステップ8】希望を抱き一喜一憂しない


今号は、続いて、


【親のステップ9】変化することの大切さ


において、距離を見直す4つのヒントについて学びたいと思います。


 


<見直し1 母親のペットにしていないか>


多くの場合に、母親と当事者の距離は、近すぎるといえます。母親は、食事を作り、ときには部屋まで運び、当事者の下着からパジャマまで洗濯をします。その結果、どうなるか。当事者の自立心は失われてしまうのです。洗濯のやり方すら知らず、カップ麺くらいしか作れない当事者が多いのですが、母親は「家事は母親の仕事」として疑問すら抱かないのです。感情不安定から問題行動を多発する「ボーダーライン」というパーソナリティ障害の原因は、日本では幼少時の過保護にあるといわれています。誤解してほしくないのですが、過保護の全てが問題だと言っているわけではありません。盲目的な過保護、すなわち相手の自立を阻害してしまうような過保護が問題なのです。俗にいえば、ペット化です。ペット化されると、その本人は、自分の感情をコントロールする力が身につきません。


 


<見直し2 父親の過剰圧力>


母親が過保護ならば、父親は過剰な圧力を子どもにかけていないかを、振り返ってみてください。とくに「世間体を気にしすぎる」父親には、過剰圧力の傾向がみられます。1のお説教でいいところを、2も3もお説教してしまう、くどくどと、かつ強圧的に、そして時には感情をむき出しにしてしまうことはありませんか。親は、それを「叱咤激励だ。」と言い訳をします。でも、親はそのつもりでも、子どもは「激励」と受け取るでしょうか。親の叱咤が、愛情表現ではなく「怒り」の表現となっていないでしょうか。


 


<見直し3 傷ついたときにはカム・アウト>


「当事者に謝るより、こちらが謝って欲しいくらいだ」と言いたい父親も多いかもしれません。過去に当事者の家庭内暴力を受けたり、応戦して暴力をふるったこと自体が屈辱的です。しかし、屈辱や恐怖などのマイナスの感情は、避けようとすればするほどに強くなる性質を持っています。こんな場合の解決法の一つが、ひきこもり外来や親の会で「告白」(カム・アウト)することです。


 


<見直し4 妻任せをやめて近付く努力を>


当事者となかなか向き合おうとしない父親は、「妻任せ」であることがほとんどです。しかし、これは「子供に近づく方法がわからない」と告白しているようなものです。父親が参加することで、家庭内の力関係は、2対1と親側が有利になります。父親の参加は、親全体が関心を持ってくれたことを意味します。当事者にとって、それは今までにない新しい展開なのです。


 


 また、いったんひきこもりから脱した当事者が、再びひきこもりに戻る「リバウンド」を防ぐための取り組みについても紹介します。


<努力1 過去の傷に触れない>


いったん出てきて再度ひきこもらせないためには、「ひきこもっていた時」より「今の生活の方が良い」と思えることが必要です。過去にこだわらず、あるがままを見据えて、「今ここから」スタートすることです。


<努力2 強制的に対応した場合は特に注意>


最もリバウンドが多いケースは、強制的に施設入所がなされ、強制的に「労働・ボランティア」に従事させられた場合です。


<努力3 当事者を常に見守る姿勢>


親に必要なことは、当事者が家を出て、外来やNPOに参加したことで安心することなく、当事者を見守り続けることです。


 


【親のステップ10】経験を伝える大切さを知る


最後のステップになります。回復した経験を、いまだ苦しむ親や当事者に伝え、市民社会の一員であることを実感することです。引きこもりは、時代と社会が閉塞して生きづらく、本来の人間性と相反するものであるという訴えです。若者によって問題提起された「ひきこもり問題」の意味を解して解決に取り組むことは、共同社会を生き生きとした、住みやすい成熟社会へと一歩進めることになるのです。



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