学園日誌

diary

学園日誌

特別支援教育のスタンダード 2


今号も、引き続き『通常学級での特別支援教育のスタンダード』(東京書籍)をご紹介します。前回は、どの子にも育つ環境を保障すること、そのなかで工夫する能力を伸ばし、自らハンディキャップを軽減できる子どもを育てるのが包み込むモデルだと紹介をしました。では、包み込むモデルによって、彼らの内部にどのような変化を作り出せばよいのでしょうか。子どもの内部を見ることについて、学んでいきたいと思います。


まず、自分が外部と接している部分では「支援を適切に受けられる能力」が育っている必要があります。外部の環境がいくら整っていてもそれを上手に活用できる本人の力が育っていなければその環境は役に立たないのです。我々はどんな人もなんらかの支援を受けて生きています。人は社会的な存在なのです。そして、どの人も量や質を自分で調整しながら支援を受けます。発達障害があるという事情をもっている彼らの支援の受け方は、より複雑で難しくなります。支援を受けることを、自身で適切に調整する力を身につけるためには、その方法を意識的に学んだり、身につけたりする必要があります。自分に必要なものだけを必要に応じて受けられるというのが「適切な」という意味です。この能力を身につけることが、環境が自分をダメにするのを防止します。では、そうした能力をどうやって身につけていくのでしょうか。包み込む環境には、確かに保護の側面があるのですが、その保護の目的は、あくまで「自分でできる」という実感が持てる状況作りであり、自立体験を確保することなのです。本人の中にすでに備わっている達成感を求める気持ちが、整えられた環境の中で満たされます。そんな環境の中では、色々なことをできるだけ自分でやりたいし、人から支援してもらってでも達成したくなります。結果的に、自分で行うべき部分と、人から支援を受ける部分との仕分けをせざるをえません。こうして適切に支援を受ける能力は身についていきます。


 適切な支援を受ける能力の内側にあるのは「自分でできる能力」つまり「自助能力」になります。学校教育の段階でも、発達障害のある子を対象とする教育にあっては「自助能力」の層をどんどん大きくしていくことが当然求められます。なぜなら、ここの成長が本人の中に最も大きな喜びとなり、これまでの失敗に対する癒しにもなるからです。ただし、ここで注意しておきたいのは、時に、自助能力を育てるという名目で、放り出し、突放しが行われることがあります。それによって育つのは自助能力というよりも、自己防衛能力です。非行、引きこもりなどに苦しむ子どもの中に時々見てとれる種類の「自分を守る対処能力」が引き出されるのです。こうした行動も一種の自助能力として生じるのですが、我々が育てたいのは、もっと前向きで積極的な自助能力です。人を乱暴に遠ざけたり、避けるというような方法ではなく、人とほどよく関わる中で自分を活かすような種類の自助能力です。そのためには、あくまで包み込む(無理なく参加できる)環境の中で自助能力を育てることが肝心なのです。


 自助能力の層は、彼らの内部にある能力の育成ですので、具体的にはソーシャルスキル、ライフスキルなどのスキルトレーニングなどの方法が例として挙げられます。このようなスキルトレーニングと言われるものには、その子ができないことを指摘して矯正する教育だと思われている誤解が一般にあります。しかし、スキルトレーニングはあくまで、自助能力を育成し、モデルの中心にある「ありのままの自分」を包み込む環境づくりとしてあるのです。こだわりのある自分、集中することが苦手な自分、読み書きが苦手な自分、そのままの自分を受け入れ包み込むためには、スキルをもつ必要があります。こだわりを趣味として楽しめるスキル、集中できる時間や場所を自分で作るスキル、ワープロを自由自在に使いこなすスキル、そういったスキルをトレーニングすることで、自分を否定するのではなく、あくまで守り、活かすのです。


 こうして「ありのままの自分」を最も近い位置で包み込む「自助能力」を教育段階で育てていき、そのような変化を遂げていく中で、包み込む環境はあくまで自分の一部として自然に存在するようになるでしょう。自分を活かす環境を、ひとりひとり自分に合った形でそれぞれの内部に作ることができる、そんな支援がスタンダードである学校でありたいと思います。



ホーム