学園日誌

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学園日誌

S・ジョブズが愛した「弓と禅」  Part 1

1924年ですから戦前の話です。オリゲン・ヘリゲルというドイツ人哲学者が今の東北大学(旧東北帝国大学)に哲学の講師として来日され、仙台で数年間過ごされたときに弓道を習われたそうです。著作『弓と禅』はそのときのドキュメントなのですが、この本は今でも再版され続けています。そしてあのスティーブ・ジョブズ氏の愛読書だったというのです。

そのヘリゲル氏が師事された弓道の達人は『弓聖』と称された阿波研造氏でした。その阿波氏がヘリゲル氏に数年間にわたって説かれたのは自我を捨てていかにして『無心』の境地に達するかの教えでした。もちろん、そう簡単には体得できません。しかも阿波氏はヘリゲル氏に手取り足取りの指導はせず、射の失敗を重ねるヘリゲル氏をひたすら黙って見つめているだけだったそうです。

「いったいどうして師はわたしに射を教えてくれないのか」ついにヘリゲル氏は阿波氏に教えを懇願します。すると師はこう言われたそうです。
「あなたの欠点は、まさにあなたが無心になろうとする立派な意思を持っていることです。正しい呼吸と集中すること、それからあらゆることを自然に委ねなさい。あなたはあなた自身から離れ、無心になったときに『それ』が射るのです」
 いまから百年近い前に仙台で弓道の稽古に励んだひとりのドイツ人は師の言った「それ」の力をまざまざと見せられることになります。

 こんな話を生徒たちにすると教室にはピンと張った緊張感に包まれます。果たして阿波研造氏が語った「それ」とはなんなのか・・・?
look forward to next(次回をお楽しみに)


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