毎年、八月になるとドキュメンタリーや報道番組などで75年前の太平洋戦争の記憶について放送されます。授業の入り口で、ちょっとした話の弾みで戦争時のエピソードを語ることになりました。平和の大切さや核兵器の根絶などの話になることは多いのですが、話題になったのはドナルド・キーンという日本のことをこよなく愛してくださったアメリカ人で、日本文学の翻訳と紹介にもの凄い貢献をしてくださり、東日本大震災以後、来日して帰化されて、最後は日本人として亡くなられた方です。
もちろん生徒たちは誰一人としてキーンさんのことを知りません。ましてや、そんな人と戦争と何の関係があるかと不思議そうな顔つきなっていました。じつはキーンさんは第二次世界大戦当時アメリカ軍の情報収集班の一員としてハワイ島やワッツ島で日本人捕虜の通訳として働かれていた人なんです。
戦争直前のアメリカでは日本は仮想敵国でした。間違いなく近いうちに戦争になる相手国でした。当時、わずか16歳でコロンビア大学に飛び級入学するほどの天才児だったキーンさんはニューヨークのある本屋で運命の本と出会います。その本とは「The tail of Genji」そう、なんと源氏物語の英訳本だったのです。