その日記はやはり南方で戦死した日本兵のものだったのですが、日記の最後の部分に「おそらくもう明日まで命が持たないだろう」と書かれてあり、続けて「もしもこの日記を拾った米兵がいたなら日本の住所を書いておくからこの日記をそこにいる妻に送ってはもらえないだろうか」と、なんと英語で書いてあったそうです。
キーンさんはそれを読んで号泣しました。そしてこれほど素晴らしい人が日本にいて、一兵卒としてアメリカと戦っている。キーンさんはその日記を記した見知らぬ日本兵士に人として敬意を抱き、押収されたその日記を日本に返してあげようと誓うのです。ですが、上司から厳しく咎められて読み終わった日記はすべて焼却されたそうです。
そんな任務に当たっている頃にキーンさんは休日を利用してハワイ大学に通っていました。なんと当時のハワイ大学では「日本文学」を教えている講座があったんです。もちろん戦争中です、しかも日本は敵でハワイの真珠湾を奇襲した憎っくき国です。そんな国の文学を、そんな時期に、大学で学べるんです。こういうところにアメリカの強さが感じられますよね。
報道番組で戦争を学んだ中高生から「戦争は悪い」「核兵器はいけない」といった判を押したような感想をよく耳にします。もちろん正しいことですが、ドナルドキーン氏のような人物を通して戦争を学んだり、彼が日記を読んだときの気持ちについて考えることが間接的に戦争の本質に迫ることに繋がるのではないでしょうか?
思いもよらず、余談が授業に発展することがありますが、なかなか気持ちがいいものですね。